藤田嗣治展 [アート]
没後50年記念の藤田嗣治展を東京都美術館でみた。パリ・モンマルトルを拠点に乳白色のバックに裸婦を描いたフジタのイメージが覆される展覧会だった。
南米放浪で描いたドギツイ色彩の絵や、東北や沖繩など日本各地に主題を求めた作品、そして戦争画。第1次、第2次世界大戦に飜弄され、戦後は戦争への加担を問われ、再びフランスへ。ランスに住み、フランスの国籍を取り、キリスト教の洗礼を受け、レオナール・フジタとなった。
テーマや画風の変遷を見ながら思ったのは、藤田はただ描きたかったのだということ。絵への純粋な情熱が全てではなかったのか。女性が代わるたびに絵が変わる、というか、画風が変わるたびに愛した女性も代わる、そんな生涯に芸術家の自由な心を感じた。
江戸東京の明治維新 [読書日記]
国立歴史民俗博物館の横山百合子教授の岩波新書を読んだ。考えてみれば、わずか150年前のことなのに、市井の人々がどんな暮らしをしていたのか、よく知らない。映画やテレビの幕末ものは、いわば権力闘争であったり、国のかたちをどう作っていくかが、志士たちの活動を中心に語られることが多い。
「150年前の胸に刺さる現実」という帯に惹かれて手に取った一冊だったが、歴史に名を残さぬ人たちの日常を垣間見ることができた。特に遊廓や屠場で働く人たちのエピソードは知らないことばかり。いなりと巻き寿司を組み合わせた寿司を「助六」と呼ぶのは、遊郭を舞台にした歌舞伎「助六由縁の江戸桜」の主役助六と遊女の揚巻にあるという小話に、へえと感心。江戸の庶民にとって、いかに遊郭が身近にあったかを物語る。
賎民層を支配した弾左衛門の存在も初耳で、人々が嫌がる仕事を任せる代わりに、そのまとめ役には特権を与える。そうした統治のやり方が、その後の差別に繋がっていったことが理解できた。
仙厓礼讃 [アート]
博多の仙厓和尚の書画コレクションで知られる日比谷・出光美術館で、書画展「仙厓礼讃」をみた。人生50年の時代に還暦過ぎまで住職を務め、その後は隠居をし、好奇心の赴くままに祭りや珍しいものを見物に行ったり、地元の人たちと交友を広げたりした。米寿まで人生を謳歌した、いわば「老後の達人」の日々を書画でたどる。
有名な「□ △ ○」(出光佐三は海外向けに「ユニバース」と名付けて紹介した)はじめ、老人六歌仙画賛など、ユーモアあふれる作品が並ぶが、その作品が語るのは「人にはだれにも仏性がある」など、禅の教えだ。
「苦も楽も心ひとつの置きどころ 笑うて暮らせ人の一生」。先輩から教えてもらい、座右の銘としている仙厓さんの言葉だ。
愛しのアイリーン [シネマ&演劇]
贔屓にしている安田顕主演の「愛しのアイリーン」を日比谷のシャンテシネマでみた。知らなかったが、ビッグコミックスピリッツに新井英樹さんが連載していたマンガが原作という。農山村の過疎、高齢化と嫁不足、外国人労働者の移住など、社会問題を真っ向から捉え、話題になったらしい。
吉田恵輔監督による映画化は、暗くなりそうな話を、安田演じる四十男の焦りと滑稽さをうまく描いていた。安田が「お○んこ!」と叫び、職場やスナックのお姉さんにむしゃぶりつく様は、まさに快演。フィリピンの嫁・ナッツ・シトイとの、日本語ができないゆえのコミュニケーションのもどかしさもおかしみが出ていた。
フィリピーナを妻にする人たちは、身近に普通に居る。夫に先立たれたり、逃げられたりして、母子家庭になるケースは枚挙にいとまがないだろう。映画は、いろんな騒動をデフォルメした娯楽作だが、現代のリアルな嫁取り物語でもある。
星の王子さま [シネマ&演劇]
Project Nyxの公演を池袋の東京芸術劇場で見た。寺山修司がかの有名なサン・テクジュペリの星の王子さまを舞台にした。その原作を宇野亜喜良の構成・美術と金守珍の演出で料理した。
見えるものを見ない、見えないものを見る。現実と夢、真実と幻想、地獄と天国。元売春宿のホテルを舞台に、大人の童話と寺山ワールドが交錯する。
若林美保、ヴィヴィアン佐藤、エロチカ・バンブー、フラワー・メグ、中山ラビといった、往年のミューズたちが一芸を披露する。流れたジュリーのヒット曲「サムライ」の歌詞が心に残る(阿久悠の作詞、やっぱりすごい)。
劇中の説明では、寺山版では最後、物語の舞台のホテルが崩れ落ちてラストだった。現実世界の出来事が劇場化してフィクションを追い越してしまっている2018年版では、むしろ原作の「星の王子さま」のピュアなラストを生かしたという。
太陽の塔 [シネマ&演劇]
ドキュメンタリー映画「太陽の塔」を試写会で観た。1970年の大阪万博で岡本太郎がつくったモニュメント。大阪の万博記念公園に保存され、今年約半世紀ぶりに内部が公開された。岡本がどういった思いで、この巨大で異様なな塔を建てたのか。関係者へのインタビューで迫る。
6000万人が見た大阪万博。自分も少年時代、未来都市を夢見てパビリオンに行列した。太陽の塔にも行ったが、その意味を考えることはなかった。「人類の進歩と調和」という万博のテーマに対して、私は進歩に疑問を持っている、人間なんて少しも進歩していない、人間的な生き方をしている人なんて、今日いないじゃないか。岡本はそんな批判的な考えを太陽の塔で表現したという。
縄文の文化を愛した岡本は、土偶や、神への捧げ物などをイメージして、べらぼうな造形物を作り上げた。万博の遺物として唯一残したというか、誰も恐ろしくて解体できなかったらしい。普段何気無く通り過ぎている渋谷駅の壁面には、「明日の神話」という岡本の作品がある。太陽の塔と対をなす作品だという。過去、現在、未来という区切りを超えた芸術表現。半世紀の時を超えて、もう一度太陽の塔の下に立ってみたいと思った。
岡本太郎と太陽の塔 増補新版 (Shogakukan Creative Visual Book)
- 作者: 平野 暁臣
- 出版社/メーカー: 小学館クリエイティブ
- 発売日: 2018/09/12
- メディア: 大型本