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すばらしき世界 [シネマ&演劇]

2月28日で緊急事態宣言が解除されるので、2日ほどフライングだが、映画鑑賞を解禁した。最近のシネコンは換気がしっかりしていて、客席も一つ置きにするなど、感染対策は徹底しているのは知っていたが、宣言中は気分的に行く気がしなかった。家族連れで見る作品ではないので、土曜昼間なのに客席は閑散としていて、ホッとした。

役所広司主演、西川美和監督。人生の大半を刑務所で暮らした元殺人犯が世間で生業に着こうともがく様を、ドキュメンタリー番組にしたいと考えるテレビマンの視点で描く。短気で粗暴な言動はまともではないが、まっすぐで男気のある性格は気持ちがいい。そんな男を周囲はなんとか、真っ当な人生を歩んで欲しいと世話をする。とはいえ、嫌なことは我慢し、見たくないものには目を瞑り、同調圧力に従いながら、社会の枠をはみ出ないように暮らす人々にとって、男への世話は「それなりに」しかできない。みんな自分が可愛い。思った通りに行動する、男のような生き方にある意味、憧れがあるのかもしれない。

男にとっては、ムショ暮らしが天国であり、シャバは地獄だった。理不尽なラストで「すばらしき世界」というタイトル自体が観客たちに問いかける。原作は佐木隆三「身分帳」。佐木さんは北九州出身で、主人公の男は筑紫野出身という設定だから、作品では九州弁が全開だ。東京の電車内で九州弁で普通に(多少大声で)話していたら、周囲の人たちからヤクザが喧嘩しているのかと白い目で見られたという笑い話をかつてはよく聞いた。そんなことを考えながら、イオン筑紫野で久しぶりのシネマを楽しんだ。
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 [シネマ&演劇]

推している小松菜奈と菅田将暉主演の「糸」をアップルTVレンタルでみた。確か昨夏公開だったが、もうWEBで見ることができる。興行不振でオンライン配信という流れ、皮肉だが「コロナのおかげ」なのだろう。

中島みゆきの名曲「糸」から紡ぎ出したストーリー。すれ違い、数々の障害、葛藤を乗り越えて、ラストは結ばれる。平成という時代のさまざまな出来事が背景として映し出される。東日本大震災があり、DVが問題化し、シェルターとしての子ども食堂が地域にできた。自らの歩んだ道のりにいつしか思いが及ぶ。

「逢うべき糸に出逢えることを人は仕合わせと呼びます」という歌詞がずっと頭の中を駆け巡るけれど、劇中で主人公らがカラオケで熱唱する「ファイト!」もあらためて身に沁みる歌だなあと思う。北海道の美瑛、函館、東京・新宿、シンガポール。赤い糸の物語よりも、心のふるさとに還る、たどり着くストーリーに優しい気持ちになった。瀬々敬久監督。


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  • アーティスト: 中島みゆき
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  • 発売日: 2020/12/02
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虞美人草 [読書日記]

夏目漱石の「虞美人草」を読了した。Kindleの青空文庫で読む。漱石が朝日新聞にいた頃、連載したデビュー作。一字一句にこだわって書いたという、その力の入れようが伝わってくる作品だった。

虞美人は、四面楚歌の故事で知られる古代中国・楚の項羽が愛した美しき姫。ヒナゲシの別名。恋愛、結婚をめぐる、明治の時代の知識人、エリートのすったもんだのストーリー。京都から東京の名所の様子が紹介され、上野・不忍池の博覧会開催など世相が織り込まれている。

お話は、悲劇的な結末を迎えるが、嫁に行き遅れるだの、母の面倒は誰がみるのかだの、根本のところは今もあまり変わってない気がする。作品の背景にある家制度や男尊女卑の考え。ジェンダー平等が言われる今の世の中ゆえ、「それはないだろ」とツッコミながら味わえる名著だと思う。
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高島野十郎展 [アート]

生誕130年記念「高島野十郎展」を久留米市美術館に見に行った。久留米出身でひとり風景画を中心に描き続けた。世界を全国を旅してなんでもない景色に美しさを見出した。晩年の蝋燭の連作は胸に迫るものがあった。

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東京では北青山に住み、千葉の柏市に移ったという。若い頃はパリに住み欧州各地をスケッチ旅行している。帰国してからは、一時地元に戻り筑後の山河を描いた。赤いカラスウリが印象に残った。

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そろそろ絵を再開しようと思っていたので、高島の自由なスケッチ旅行には憧れる。誰でも彼でもスマホで写真を撮る時代だからこそ、アナログで自らの目と手で描いてみたいと思う。最後は光と闇の深さを探求した高島の精神に敬意を表して記念の絵葉書を求めた。
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