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阿久悠と松本隆 [読書日記]

稀代の作詞家、阿久悠と松本隆の軌跡を語った一冊。昭和歌謡からニューミュージック、和製ポップスへと変遷していく流行歌の世界。かつてテレビの歌番組やラジオで聴いたりした懐かしの歌を脳裏で口ずさみながら、二人が残した膨大な歌たちのストーリーを辿った。

キャンディーズ、ピンクレディ、沢田研二、山口百恵、松田聖子‥‥。レコード会社やプロダクション、テレビ局がどんな風に売り出し、展開していったのか。作詞家と作曲家がタッグを組み、歌手を育てヒット曲を生み出していったかが、当時のチャート、レコード売上枚数とともに描き出される。時代とともに歌があり、一世を風靡する大ヒット曲が生まれた時代が確かにあったのだと改めて思う。

阿久悠も松本隆も、手法や世界観は全く違うが、これまでになかった歌を世に送り出したいと書きまくった。それぞれに癖があって、阿久悠が映画のタイトルから連想して曲名をつけたり、松本隆が好んで使う「風の街」のエピソードなど、楽しく読んだ、令和の時代、日本人全てが知っている流行歌は、もはや存在しない。ミリオンセラーが出たとしてもそのアーチストのファンが100万人いるというだけの話で、1億人はおろか500万人にもその歌声は届いていないだろう。音楽は細分化されていると、著者の中川右介さんは指摘している。昭和の人間としては少し寂しい気持ちになった。




阿久悠と松本隆 (朝日新書)

阿久悠と松本隆 (朝日新書)

  • 作者: 中川右介
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2017/11/13
  • メディア: 新書



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料理と利他 [読書日記]

政治学者の中島岳志さんと料理研究家の土井善晴さんの対談本「料理と利他」を読む。中島さんが東京新聞や西日本新聞で担当している論壇時評は、全国紙なども含めて今一番旬の論評だと常々思っている。その中島さんが最近テーマとしているのが、利己に対する「利他」。テレビで見る土井さんの話は共感することが多く、またとない二人によるセッションとなった。

利他と言ってもそんなに堅苦しい話ではなく、後ろの方にはポテサラや芋の煮っ転がしの作り方も出てくる。コロナ時代で家メシが多くなった人たちに家庭料理はええ加減でいいんよと説く。日本にはハレの日、ケの日があるが、普段はケハレ(日常)。ハレの料理を家庭で作らなくても良いのだと。環境の話も最初出てくるが、今回のコロナは人類が荒らした森のウイルスたちが引っ越しをしたのだと指摘したイタリアの作家の話を紹介している。アグレッシブな乱開発の姿勢を改めないと、またウイルスに接近しすぎて次のパンデミックを招く。その通りだと思う。

料理の話では、和食は混ぜるではなくて、「和える」と言うのだと。素材の味を残す、味のムラがあるように敢えて混ぜすぎないこと。それが「ええ加減」。自然に沿うハーモニーを大切にする。土井流のクッキング本が欲しくなった。


料理と利他

料理と利他

  • 出版社/メーカー: ミシマ社
  • 発売日: 2021/01/12
  • メディア: Kindle版



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デジタル・ファシズム [読書日記]

堤未果さんの話題の新書を読む。マイナンバーカードや教育現場でのIT化、キャッシュレス決済などデジタル庁を中心に国が推進するデジタル政策のリスクについて大いに危機感を煽る書。読み進めるうちに「日本は大丈夫なのか」と心配になってくる。

米国や中国が国を挙げて推し進めるデジタル戦略に日本は侵食されている。個人の情報が筒抜けになり、プライバシーが外国政府の手に渡るという。長年の会社勤めでしっかり所得を把握され、マイナンバーカードも作っている身としては、今さら守る情報もないかなあと、個人的には正直諦めの境地だが。

永田町も霞ヶ関もバカばかりではないのだろうが、この新書を読んで何となく不安になるのは、やはり政治への信頼感がないから。暗愚の前首相が毀損した良識や寛容が尊ばれる世の中。デジタル知識に長けた者だけが生き残る弱肉強食の世界がこのまま続くのか。本当に大事なものを見失わないようにしなければと思う。


デジタル・ファシズム 日本の資産と主権が消える (NHK出版新書)

デジタル・ファシズム 日本の資産と主権が消える (NHK出版新書)

  • 作者: 堤 未果
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2021/10/11
  • メディア: Kindle版



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海の歴史 [読書日記]

フランスの知性ジャック・アタリの著作を読む。海を支配した者が世界を支配してきた歴史を辿る。フランス人なので、何より「なぜフランスが海を支配するチャンスを活かせなかったのか」という論点が何度も出てくるが、世界を視野に海を巡る人間の活動を語る視点は新鮮であり、なるほどとうなずく指摘も多かった。

海上交通や海底ケーブル、さまざまな資源のことなど、普段はあまり意識しない。しかし海は陸上に比べれば遥かに安全に、しかも大量に物を移動させることができる。これだけIT技術が発達しても大陸間をつなぐケーブルは情報の命綱であることに変わりはない。

未来に向けて人類は宇宙への進出に夢中になっている。だが人類の持続的発展、もたらす利益が海にあることは多くの人々が気づいていないと言う。深海はじめ広大な海にはまだまだ未知の世界が広がっている。汚染や資源の乱獲など、ようやく警鐘を鳴らすようになった世界の動きに無関心ではいられないと、改めて思った。



海の歴史

海の歴史

  • 出版社/メーカー: プレジデント社
  • 発売日: 2018/09/28
  • メディア: Kindle版



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死にとうない 仙厓和尚伝 [読書日記]

博多の仙厓さんと親しまれた仙厓和尚の伝奇小説を読んだ。堀和久さん著の新人物文庫。東京・日比谷の出光美術館であった仙厓さんの書展を見に行き、ミュージアムショップで見つけた一冊だった。長いこと積読にしていたのをたまたま手に取って寅年最初の読書に勤しんだのだが、これが滅法面白くてあっと言う間に読了した。

貧しい生まれの捨て子で縁あって仏門に入った。勉強熱心な学僧として注目を集めるようになるが、生まれ故郷の寺に錦を飾るという夢を断たれ、行雲流水の雲水として托鉢の乞食僧として列島を放浪する。盗み、殺生、飲酒、高慢、女犯という僧が守るべき5つの戒め。欲望に勝てぬ自らに苦しみ、死線を彷徨うこともあった。

最後は悟りを開き、博多の聖福寺の住職に請われて赴任する。ユーモラスな禅画に、気の利いた賛をつけた書が人気を読んだ。今もその箴言は心に響く。博多生まれの先輩から教わったのは、「苦も楽も心一つの置きどころ 笑ろうて暮らせ人の一生」。大切にしている座右の銘である。


死にとうない (新人物文庫)

死にとうない (新人物文庫)

  • 作者: 堀和久
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2015/03/20
  • メディア: Kindle版



死にとうない―仙ガイ和尚伝 (新潮文庫)

死にとうない―仙ガイ和尚伝 (新潮文庫)

  • 作者: 堀 和久
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/01/05
  • メディア: 文庫



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