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リアル(写実)のゆくえ [アート]

久留米市美術館の「リアル(写実)のゆくえ」展を見に行く。「現代の作家たち 生きること、写すこと」というサブタイトルがつく。以前、超写実の絵画を集めた千葉のホキ美術館に行ったが、写実ということに昔からなぜか惹かれる。

今展は絵画だけでなく彫刻や金属による自在など多様な手法の写実作品が一堂に集められた。もともと絵画はそこにある人や物を人の手によって記録することから始まったのだろう。そういう意味で写実は原点であり、人の欲求の根本にあるものではないか。近代になって写真やコピー機が発明されても絵画や彫刻などで写し取る行為は続く。

樹脂の水槽に泳ぐ金魚(深堀隆介)、鉄自在イグアナ(本郷真也)、静物シリーズ(秋山泉)、義手シリーズ(佐藤洋二)など現代作家の作品が印象に残る。樹木を描いた作家が語っていたのは、刻々と変わる樹木の姿を見ながら写実をする。一瞬ではなく、時間をかけて人の目を通して感じたものが写し取られる。デジタル写真とは違う、作家の思いが作品には宿る。その魅力が見る者に訴えかけるのではないかと思った。

リアルの行方.jpeg
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すずめの戸締まり [シネマ&演劇]

3・11に新海誠監督の「すずめの戸締まり」を見た。家族が不在で、たまには映画でも見るかとチケットを予約した日が3・11だった。その日だけ上映回が増えているのに後で気づいて、東日本大震災から12年の日だと思い出した。

地震の話で3・11の被災者にはストーリに複雑な思いがあると聞いていた。南海トラフの宮崎南部から四国、神戸、東京、そして東北と、物語は地震列島を北上していく。地震を起こす地底の力を表すミミズが青空に伸びていく異様な景色は恐ろしく不気味だった。かつて住んでいた東京の住居付近であるお茶の水の地下鉄丸の内線が地上に顔を出すトンネルの出口。そこからミミズが出てきて東京の空にトグロを巻く。要石から解放されたネコのダイジンが「100万人が死ぬよ」と可愛い声で囁く。恐ろしい言葉に鳥肌が立った。

要石にされた閉じ師の若者をすずめが助け出すのは予定調和のストーリーだが、母を失った幼いすずめを育てた叔母たまきとの関係、姉の娘の子育てで青春を奪われた体験は、多くの犠牲者を出した被災地ではよくある話で、同じ思いをしている人があるんだろうなと胸に刺さった。そして涙が止まらなかった。自分が被災者だったら3・11にこの映画は見たくないと思った。
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