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失われた時を求めて〜ソドムとゴモラ [読書日記]

失われた時を求めて第4編「ソドムとゴモラ」を読了した。集英社文庫では7、8冊目。この章は600ページを超す分厚さで、微に入り細に入る文章と格闘する形となった。

テーマは作品の主軸の一つ、同性愛について。いわゆるゲイ、レズビアンの人たちへの偏見は当時のフランス社会では根強かったようだ。話の舞台である社交界でもゲイの男爵へ好奇の目が向けられる。主人公は恋人がレズビアンではないかとの疑惑を抱き、苦悩する。今はダイバーシティの先端を行くフランスだが、今昔の思いがする。

心に残った箴言二つ。
人との会話は、さまざまな意見を正確に知るためより、むしろ新しい表現を覚えるためにこそ必要である。
怠け癖さえ天賦の才能のように思われた。なぜなら怠惰は労働の反対であり、労働は才能のない人間の宿命だからだ。


失われた時を求めて 7 第四篇 ソドムとゴモラ 1 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

失われた時を求めて 7 第四篇 ソドムとゴモラ 1 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/10/18
  • メディア: 文庫



失われた時を求めて 8 第四篇 ソドムとゴモラ 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

失われた時を求めて 8 第四篇 ソドムとゴモラ 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/10/18
  • メディア: 文庫



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失われた時を求めて〜ゲルマントの方 [読書日記]

第3編「ゲルマントの方」を読む。スワン家と反対側の道を行くとあるゲルマント家の人たち。憧れの公爵夫人に会うため友人の伝手を辿ってようやく晩餐会に行く。歴史や物語に登場する名家の名前たち。広大な屋敷に華やかな出立ち、高貴な口ぶり。でも、そこで口にされる話題と言ったら・・・滑稽で醜い人たちの言動を事細かに記してサロンの実態を描く。

ドレフュス事件という当時の世論を二分した大事件の話が出てくる。ユダヤ人への差別意識は、日本でいう在日差別と同根のもののようだ。作者のプルーストの母親がユダヤ人であり、同性愛ととともに当時のマイノリティーの置かれた立場が作品の主題の一つであることは疑いがない。

この編では元カノのアルベルチーヌが成長した姿を見せたり、大好きだった祖母が天国に召されたりする。以下は印象に残った節とトリビア。
・「このような無用な時間、快楽を待つ奥深い控室のような時間、それを私は知っていた。かつてバルベックで皆が夕食に行ってしまい、一人で自分の部屋にいた時に、こうした時間の持つ暗いけれども快い空しさを経験した」
・当時のフランスでは、高貴な人に対しては三人称で呼ぶ習わしがあった。


失われた時を求めて 5 第三篇 ゲルマントの方 1 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

失われた時を求めて 5 第三篇 ゲルマントの方 1 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/08/18
  • メディア: 文庫



失われた時を求めて 6 第三篇 ゲルマントの方 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

失われた時を求めて 6 第三篇 ゲルマントの方 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/08/18
  • メディア: 文庫



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失われた時を求めて〜花咲く乙女たちのかげに [読書日記]

第2篇「花咲く乙女たちのかげに」を読了する。タイトル通り語り手の主人公が乙女たちに恋する様、その心情が延々と語られる。例によってさまざまなイメージが想起され、次々と登場する人物たちが主人公に刺激を与える。

初恋の相手はジルベルト。スワンとオデットの娘だ。サロンが開かれる自宅に通い詰め、恋の喜びに浸り、やがて熱が冷める。パリのシャンゼリゼが出会いの場所で、今とは違って移動手段は徒歩か馬車。19世紀の頃からレストランがあり、それが今でも続いているといった訳注に当時の情景を想像する。花の都の歴史に思いを馳せた。

後半では、保養地での少女たちに夢中になる。アルベルチーヌが率いる一団。ブルジョアと貴族、ユダヤ人といった登場人物により、その頃に始まった格差社会や差別の構造が描かれ、それが物語の背景になっている。プルースト自身がユダヤの血を引いており、社会が発展していく中で次々と吹き出す新たな問題へ関心が高かったのがよく分かった。





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2050年のメディア [読書日記]

読売新聞、日経新聞、ヤフーを中心にインターネット時代のメディア業界の地殻変動を描いている。慶應SFCの講座から生まれた。メディア業界に関わる人たちには必読の一冊だろう。

紙の新聞か、デジタルか。技術革新か、スクープか。業界の人間にとっては、この20年ほど常にこの言葉が頭のどこかにあり、自らの拠って立つ地盤、会社は大丈夫なのか、転身すべき時なのではないかと自問自答する人も多かったのではないかと思う。ソフトバンクの孫正義がiPhoneの販売権を得て、国内で売り出したのは2008年6月。10年には4Gが実現し、世間にはあっという間にスマホが普及した。それから12年、スマホでニュースを知る時代が到来するとともに新聞の部数は激減してきたのだ。

今年になってスポーツ紙が相次ぎ休刊、デジタル媒体に切り替わるとの発表があった。次はいつ夕刊がなくなるか。最新のニュースがスマホで見れる環境では、すでに夕刊の存在意義は薄れている。惰性で発行しているのは、広告売上高を減らしたくないという、つまらない新聞社内の事情だけだ。とはいえ、新聞社はジャーナリズムの担い手として生き続けてほしい。米国のように地方新聞がなくなった街を想像してほしい。行政権力に対してものが言えない社会。誰も批判する者がなくなると、必ず権力は腐敗する。ロシアや中国、北朝鮮。官製メディアだけの言論社会は想像するだけで寒気がする。


2050年のメディア (文春e-book)

2050年のメディア (文春e-book)

  • 作者: 下山 進
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/10/25
  • メディア: Kindle版



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失われた時を求めて〜スワン家の方へ [読書日記]

マルセル・プルーストの大長編傑作に挑む。以前、1冊目の途中で挫折。今回は集英社文庫ヘリテージシリーズで全13冊の読破を目指す。集英社版は登場人物の一覧や全7編のあらすじが巻末についていて、完読への手引きがあるのが親切。ざっと頭に入れて第1編「スワン家の方へ」を読み通した。

フランスの貴族、ブルジョアの社交界を舞台に主人公の恋愛や家族、交友関係が細かく描かれる。フランスを中心とした欧州の文学、美術、音楽、演劇など、当時の芸術・流行がさまざまな比喩の中で取り上げられる。フランス語や仏文学についての知識がないと、読むのが辛くなるかもしれない。

初読は果たして20代だったか、30代だったか。日仏学館でフランス語を学び直していた頃だったか。とにかく、その頃に比べれば少しは教養がついたのか、ひっかかりながらも何とかかんとか進んでいる。ファッションや美術関係など日本文化のことがたまに話に出てきて、パリ万博の頃のジャパネスクブームが作品に反映されているのも面白い。


失われた時を求めて 1 第一篇 スワン家の方へ 1 (集英社文庫)

失われた時を求めて 1 第一篇 スワン家の方へ 1 (集英社文庫)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/03/17
  • メディア: 文庫



失われた時を求めて 2 第一篇 スワン家の方へ 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

失われた時を求めて 2 第一篇 スワン家の方へ 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/03/17
  • メディア: 文庫



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養老先生、病院へ行く [読書日記]

かの養老孟司先生と東大病院の教え子、中川恵一さんの共著。病院嫌いの養老先生が体調が悪くて病院に行き、心筋梗塞と分かって緊急手術で一命を取り留めた話、愛猫まるの死などについて語る。医者であるのに、統計データに基づく現代医療に違和感を持ち、「身体の声を聞く」ことを大切にしてきた養老先生の考えに共感するところが大きかった。

ペットの犬や猫は、今この時のことしか考えていない。将来のことは考えない。今をただ精一杯生きることに全力だ。人間は大脳によって都市化した世界を作り、自然=死を見えないようにして暮らしている。一人称の死(自ら見えない自身の死)、二人称の死(家族や友人などの死、家族同様のペットの死)、三人称の死(テレビなどで見る戦争の犠牲者など)という定義もストンと胸に落ちた。

うちで飼っていたフレンチブルドッグ(あんず)が息をひきとった。台風の朝、眠るように亡くなっていた。14歳という高齢で半年ほど前から病気であるのが分かっていたが、手術を回避し家で家族がケアしながら見守る道を選んだ。次第に立ち上がれなくなり食も細くなったが、痛がるそぶりはなかった。最後に大好きだった散歩にもう一度連れて行ってあげたかったなあ。役に立つとか儲かることばかりが重視される社会で、ただ純粋に飼い主に懐いてくれた存在。本書でも猫ブームは、現代の人間社会の生きづらさの裏返しとの指摘があり、うなづいた。


養老先生、病院へ行く

養老先生、病院へ行く

  • 出版社/メーカー: エクスナレッジ
  • 発売日: 2021/04/08
  • メディア: 単行本



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土地の文明 [読書日記]

「地形とデータで日本の都市の謎を解く」というサブタイトルがつく。元建設官僚の竹村公太郎さんの著書。全国の都市を俎上に上げ、土地の下部構造に着目、都市の成り立ちを解き明かす。人気番組「ブラタモリ」のタネ本みたいな一冊で滅法面白かった。

皇居の正門は半蔵門という仮説、土地をめぐる徳川の吉良への恨みが背景にあった忠臣蔵の真相、 石狩川のショートカット、権力と権威が分かれた鎌倉幕府など、へえと思う話が続く。荒俣宏は「知力がドンドン湧いてくる本」と評しているが、それも頷ける。

キーワードの一つは交流軸。現代で言えば高速道路のネットワークに重なる都市は栄ることが実証されている。人やモノが集まる場所は繁盛するのだ。京都への遷都による奈良の衰退、交流軸による滋賀の繁栄という現象はあまり知らなかった。大河川がなく地理的に安全でもない福岡市が大繁栄しているのは、世界的な大交流軸の上にあり、昔から大陸に開いていた街だから。漂流して流れ着く一番の港が博多だった。

征夷大将軍の「夷」は、字を分解すると、一と弓と人。手をいっぱい広げて弓を引いている人を意味し、すなわち「狩猟する人」を意味するという。稲作をする人々が土地を求めて狩猟する人たちを追っ払う。農耕民族による狩猟民族の駆逐は、中国だけでなく日本でも行われたという説に感心した。



土地の文明 地形とデータで日本の都市の謎を解く

土地の文明 地形とデータで日本の都市の謎を解く

  • 作者: 竹村 公太郎
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2005/06/11
  • メディア: 単行本



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人生、成り行き 談志一代記 [読書日記]

「人生、成り行き」ってえ、タイトルが気に入って手に取った一冊。噺家の談志の野郎、いったいどんなこと喋りやがったのか。立川流顧問の吉川潮さんのインタビューで小説新潮に連載したのをまとめたらしいが、これが滅法面白かったね。野暮なのはダメ、江戸っ子は粋でなくちゃ。基本の行動原理はこれと、芸人だからシャレが分からない奴は莫迦 ってえの。鬱陶しい世の中故に、読んでスカッとしたね。

噺家として国政選挙に打って出たんだなあ、忘れてたけど。先輩議員の青島幸男、こいつも江戸っ子なんだが、これが野暮でいけねえ。選挙運動しないで家にいるというのは一般的には格好いいかもしれないが、あたしに言わせれば野暮。おれなら毎日女とデートするとか、トルコ風呂に通うとか、そういうやり方の方が粋。別に反社会的行為ではないしね。

談志落語の自己分析。いい好奇心を文明と呼び、悪い好奇心を犯罪と呼ぶ。いいも悪いも人間の業じゃねえか、しょうがないじゃないかと肯定していくれるのが、悪所と言われる寄席なんだ。芸術は成り上がり者のステイタス、自分をモーツァルトやルノアールに帰属させて満足を得る。人は自分を安定させるためにいろんなところに帰属する。一番帰属して楽なのが、頭を使わなくて良い宗教でありイデオロギーかな。俺が帰属するのは結局、落語しかないけど。

立川流の設立の経緯も初めて知った。談志の話は芝浜を一度聴いたきり。それも映画で。志の輔、志らく、談春らの落語もいつか聞いてみたい。



人生、成り行き―談志一代記

人生、成り行き―談志一代記

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/07/31
  • メディア: 単行本



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エロ事師たち [読書日記]

野坂昭如の「エロ事師たち」を読了した。AVもネットもなかった昭和時代の「エロ稼業」に精を出した男たちの話。エロ写真、ブルーフィルムにトルコ風呂。懐かしい用語に昔を思い出す。

関西が舞台で主人公のすぶやんが全編大阪弁で語る。企業が営業の一環で顧客をもてなすためエロ映画の映写会をしたり、売春の斡旋をしたり。もちろん当時でも違法だが、裏稼業のエロ事師たちが危ない橋を渡りながら顧客の欲望を満たす。客から感謝されることにプロとしての誇りを持って、次第に内容もエスカレートしていく。

戦後の復興から高度成長へと向かおうとする頃。警察に捕まるようなことをしながらも、まだのんびりというか、おおらかというか。今の尺度で言えば、性差別だ、人権侵害だという話にもなるだろう。発表当時としても過激な内容を、お伽噺のような感じで読み終えた。


エロ事師たち (新潮文庫)

エロ事師たち (新潮文庫)

  • 作者: 昭如, 野坂
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1970/04/17
  • メディア: 文庫



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なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか [読書日記]

宗教学者・島田裕巳さんの新書。宗教の歴史や聖地巡礼の話に興味があり、これまでも島田さんの本を手に取ってきたが、神社をめぐるこの本も面白かった。八幡、天神、稲荷、伊勢、出雲、春日、熊野、祇園、諏訪、白山、住吉。全国の至る所に同じ名前の神社が点在している不思議の謎が解けた。

それにしても日本は本当に八百万の神の国なのだと思った。神社ごとに違う神を祀っていて、しかも1社に1柱というわけではない。神社の境内に別の系統の神社を勧請して、摂社や末社として小祠がある。古事記、日本書紀に出てくる327柱の神々はほんの一部で、外国から渡来してきたり後世の人が祀られたり、自然神が元だったりする神も多い。もともとは仏教と一体だった時代の方が長く、仏が神と習合して新たな信仰の対象となったケースも多いと知った。

明治以降の廃仏毀釈、国家神道で随分と神社のかたちも変わったらしい。天神さま、菅原道真は祟り神から善なる神へ変貌し寺子屋に額が飾られたことから別に達筆ではないのに書道の神に祭り上げられた。歌舞伎の「菅原伝授手習鑑」が信仰拡大にもたらした影響も大きかった。熊野の話では、補陀落渡海(ほだらくとかい)という衝撃的な習俗を知る。海の向こうの浄土を目指して船出する自殺行為は、井上靖が小説にしているという。久留米の水天宮は、壇ノ浦で滅びた平家の人々を祭神としていることも知った。祠があれば拝んでしまう、これはもう日本人の習性なんだろう。






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