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生きかた上手 [読書日記]

聖路加国際病院の理事長・名誉院長を務めていた日野原重明さんの雑誌連載をまとめた「生きかた上手」を読む。ホスピタリティーを大事にする病院を作りあげた日野原さんの著書は初めてだったが、高齢者になってからの生き方や現代医療の問題点について、とても分かりやすくアドバイスしてくれる一冊だった。


まず健康観。健康というのは検査数値に安心するのではなく、自分が「健康だ」と感じること。「欠陥があるけど健やかである」という生き方を求めていくべきだ。老いても創めることを忘れないことも大事。人とのよい出会いがあるのは、一つの才能であるという。


医療については、「手当て」こそ原点。誰にでも覚えのある母親の魔法の手。コミュニケーションの力の原点がここにあるという。お釈迦様が弟子に教えた「二段呼吸」、しっかり息を吐くことが健康には良い。「気」を漲らせることが人をイキイキとさせると諭す。どんなに医学が進歩しても必ず死は訪れる。終末期を迎えた患者には、治すよりも癒す医療を施す。そうした対応が医療現場に定着するよう提言している。


生きかた上手

生きかた上手

  • 作者: 日野原 重明
  • 出版社/メーカー: ユーリーグ
  • 発売日: 2001/12/01
  • メディア: 単行本

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すごい神話 [読書日記]

現代人のための神話学53講というサブタイトルがある「すごい神話」(沖田瑞穂著、新潮選書)を読む。現代のアニメやゲームのネタとしても生きているという内容に惹かれて手に取る。現代でもなお古代の神が生き続けているのはインドと日本くらいらしいと知り、その特殊な風土を思う。


著者は主にインド神話を研究しているので当然、インドのヴィシュヌ神やシヴァ神といった神様や、マハーバーラタ、ラーマーナヤという叙事詩が詳しく出てくる。折々に神話の一部が紹介されているのだが、舌を噛みそうな名前の神様が多く、それを読むだけでちょっと疲れた。


とはいえ神が起こした戦争は、増えすぎる人類を間引きするため=人口を減らすためという設定が多いのには驚いた。人類は大地の重荷。環境問題をはじめ人類が引き起こしてきた地球規模の問題は古代から予測されていたらしい。神話では、言葉の力が宿る場として「名前」が強調されていて、昔から名前を持つ者の本質を表しているという。「神話は過去の遺物ではない。人の心理は神話を再生産する。変形されたり反転したり、新しい要素を付け加えられたりして、神話は連綿と語られる。今も昔も、人は神話を生き、神話に生かされている。人はそういう存在なのかもしれない」(「おわりに」より)


すごい神話―現代人のための神話学53講―(新潮選書)

すごい神話―現代人のための神話学53講―(新潮選書)

  • 作者: 沖田瑞穂
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/03/24
  • メディア: Kindle版

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インターネット文明 [読書日記]

日本のインターネットの父・村井純さんの「インターネット文明」(岩波新書)を読む。インターネットが生まれて50年、ワールドワイドWEBができて30年が経ち、全世界で利用者は50億人を超える。ネット以前と以後は、まるで別世界。ビジネスや医療、マンガから安全保障まで、まさに「インターネット文明」と言っていいと指摘する。


コロナ禍があってネットのありがたみを痛感した世界。自粛生活を機にオンライン会議による在宅勤務やネット通販、デリバリーが社会の中に定着した。我が国では光ファイバーが一般家庭にまで整備されていて、大いにネット生活を支えたが、こうした状況は世界的にはかなり特殊なものだという。


匿名の集合知であるウイキペディアや、トラストレスを本質とする暗号資産・ビットコインの話など、技術の歴史に触れながら、日本人研究者らの果たした大きな役割を紹介。「誰ひとり置いてけぼりを作らないデジタル社会」を掲げ、デジタル庁創設に尽力した話も興味深かった。憲法21条2項「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」という取り決めは世界的にはあまりないということも知った。民間と公共を行ったり来たりする米国の働き方は、「リボルビングドア(回転ドア)」といって独特のものだが、政府関係で仕事をして民間に戻ると経験値が上がり給料も跳ね上がるらしい。


インターネット文明 (岩波新書)

インターネット文明 (岩波新書)

  • 作者: 村井 純
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2024/09/25
  • メディア: Kindle版

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知的な痴的な教養講座 [読書日記]

本棚の整理をしていて目に入った開高健の文庫本「知的な痴的な教養講座」を読む。週刊プレイボーイの連載をまとめた一冊。戦場を駆け巡り、釣りで世界を股にかけ、未開の地の食に舌鼓を打った行動派の作家。縦横無尽の語り口に昭和の香りを懐かしんだ。


サントリーのコピーライターをしていた開高さん。酒にはもちろん博識で、ワインや日本酒の話には蘊蓄がいっぱい。「一本のワインには二人の女が入っている。一人は栓を開けたばかりの処女、もう一人は、それが熟女になった姿である」。ジェンダーだ、セクハラだと厳しい昨今では、たぶんクレームがつく文章もある。でも、そこにこそ人生の真実があるのだと思ったりする。


以下、心に残った一節。

・カンボジア国境で見た曳光弾。ヘミングウエーは「人が死ぬことがなければ、戦争は最高のページェントだ」と言った。

・スコッチの中でもマッカランは宝燈を守り、シェリー酒の樽で寝かせる作り方を頑なに続けている。

・毎日、毎週、読みたくなるようなコラムがある。それが新聞ではないか。新聞の復権はコラムにかかっている。

・ルーマニアの諺「月並みこそ黄金」。

・フランソワ・ラブレーは「三つの真実に勝る、一つのきれいな嘘を」と言った。凡庸な真実より、きれいな嘘の方が人生にはしばしば必要だ。


知的な痴的な教養講座 (集英社文庫)

知的な痴的な教養講座 (集英社文庫)

  • 作者: 開高 健
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1992/05/20
  • メディア: 文庫




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文学は予言する [読書日記]

翻訳家・鴻巣友季子の「文学は予言する」(新潮選書)を読む。「未来は小説に書かれていた」という惹句につられて手に取ったが、いわゆる世界文学の読書案内といった内容で、改めて「まだ読んでない本、(世の中を知るため)読むべき本は多いなあ」と実感した。


ディストピア、ウーマンフッド、他者の3章立て。「未来小説とは未来のことを書いたものではない。歴史小説とは過去のことを書いたものではない。どちらも、今ここにあるもの、ありながらよく見えてないものを、時空間や枠組みをずらすことで、よく見えるように描き出した「現在小説」なのである」。最初の方に出てくる、このくだりに「なるほど」と頷く。であれば、作品が書かれた後、何十年も経って読むと、ピンとこない話もあるだろう。特に外国の作品となると、その時代を知っていなければ文学作品が何を言おうとしているのか、本当のところは分からないわけだ。


ディストピア小説の代表として何度も出てくるアトウッドの「侍女の物語」は米ドラマとして評判になったようで、一度見てみたい。日本の作家では、多和田葉子、小川洋子、村田沙耶香が多く取り上げらていて、結構読んだ本もあった。そろそろノーべル文学賞の発表時期、今年は日本人受賞はどうだろう。


・人を能力と功績でランク付けする「メリトクラシー」の基本思想がディストピア小説にはある。近年は現実社会でも能力、成果、功績、学歴主義の問題点が問われるようになった

・メリトクラシーに則ったアメリカン・ドリームは「多様性」と「変化」への対応力をバネとしていたのに、グローバリゼーションとハイテク化でこれらが逆作用して、富裕層の固定化を促してしまった

・インテリの人は世界を飛び回っているが、実はどこへ行っても自分と似たような人たちとしか会っていない。地域を超える「横の旅行」ではなく、同じ通りの住人がどんな人かをもっと深く知る「縦の旅行」が必要なのではないか(カズオ・イシグロ)

・多くの大芸術家の妻たちは、ミューズとして、ファム・ファタール(運命の女)として崇めたてられ、搾取されてきた

・英米の出版界では、ヴァースノベル(詩小説)という表現スタイルが一つの分野を作っている


文学は予言する(新潮選書)

文学は予言する(新潮選書)

  • 作者: 鴻巣友季子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/12/21
  • メディア: Kindle版








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すべて真夜中の恋人たち [読書日記]

川上未映子さんの「すべて真夜中の恋人たち」を読了。文庫の腰巻きに「恋愛小説」と銘打った本を読むのはいつ以来だろう。内気な主人公・冬子の微妙な日常が丹念に書かれていて、たぶんこれが現代の女性たちのリアル、「あるある」なんだろうなと思った。


冬子の校閲の仕事のパートナー、キャリアウーマン聖のサバサバなキャラと、冬子が付き合う相手の中年男の控えめな態度の描き方がなかなかいい。訳ありらしい男にいつしか自分を重ね読んでいた。小説の設定のうまさが光る。すぐにでも映画やTVドラマにできそうな感じだった(もうなっている?)。


川上作品は初めてだったが、振り返ってみると結構、女性作家の作品を手に取っている。作品に男女の区別は特にないとは思うが、どこかで女性の考え方を知りたいという深層心理が働いているのだろうか。



すべて真夜中の恋人たち (講談社文庫)

すべて真夜中の恋人たち (講談社文庫)

  • 作者: 川上未映子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/11/14
  • メディア: Kindle版



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蕎麦屋のしきたり [読書日記]

元「有楽町更科」の四代目・藤村和夫さんの「蕎麦屋のしきたり」を読む。最近は昼はうどんではなくて蕎麦を食べることが多く、また蕎麦屋での一杯も美味しい季節。「うまいよなあ」と呟きながらページを繰った。


蕎麦の歴史やさまざまな蘊蓄が語られている。まあ、要は美味ければ良いのだが。いつも気になっていて、なかなか頼まないのが蕎麦屋のカレー。カレー南蛮には「蕎麦屋のカレー粉」があるそうで、カレーの素を溶いておき、蕎麦じるが煮立ったら、それをひと匙入れればカレー南蛮の出来上がりなんだとか。カレー南蛮が売りの、どの店で食べても味が変わらないのはそのせいという。


薮、更科、砂場。老舗の蕎麦屋には東京時代にチラといったが、いまだに思い出すのは霞ヶ関の官庁にある蕎麦屋。たぬき蕎麦を嵐のようにかき込む先輩に唖然とした思い出。品がない食べ方で、味もクソもないだろうと、なんか寂しい気持ちになったのを覚えている(これは余談)。


蕎麦屋のしきたり (生活人新書)

蕎麦屋のしきたり (生活人新書)

  • 作者: 藤村 和夫
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2001/11/09
  • メディア: 新書

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百年の散歩 [読書日記]

多和田葉子の「百年の散歩」を読む。1万近い通り(ストリート)があるベルリンの街を歩き、出会った人を観察し歴史に思いを馳せる。ドイツ語や言葉遊びも交えた、まるでエッセイのような不思議な小説だった。


カント、マルクス、ルターといったドイツゆかりの人たちの名前を冠した通り。ベルリンには残念ながら行ったことはないが、戦災を経験し東西冷戦を象徴する街が抱える記憶が作家の想像の翼を広げていく。作者自らと思しき語り手と、待ち合わせる「あの人」。読む人の想像力を掻き立てる、巧みな文章だった。


通りの名前になっていても知らない人も幾人かいて、レネー・シンテニスもその一人。女性の彫刻家で動物をモチーフにした彫刻作品を多く残した。ベルリン映画祭の銀熊賞のクマ(クマはベルリンの象徴)も彼女の作品と知った。


百年の散歩 (新潮文庫 た 106-2)

百年の散歩 (新潮文庫 た 106-2)

  • 作者: 多和田 葉子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/12/25
  • メディア: 文庫


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精神の考古学 [読書日記]

中沢新一の「精神の考古学」を読了した。チベット仏教の真髄を求めて、秘境で修行した20代の頃からの冒険記。チベット語の難しい言葉や哲学が出てきて、分からない箇所もあったが、精神のアフリカ的段階を極めようとする、その行動力と意志の固さに脱帽した。


縄文聖地巡礼やカイエ・ソバージュなど思想家・人類学者としての著作を愛読してきたが、中沢さんがこうした鍛錬の場で過酷な修行をしたとは知らなかった。中国共産党政権が弾圧を続けるチベットは、政治的な動きをたまにニュースで知るくらいの知識しかなかった。古代から秘密裡に伝えられてきた精神の教え「ゾクチェン」。ネパールでケツン先生と出会い、その修練の過程を具に記録した。


・資本主義社会では、死の領域につながるパサージュが閉鎖されていて、生み出された夥しい富が循環せず全体に豊穣をもたらさないシステムを作ってしまっている。チベットの祭りで化粧した牛や犬は優しさに満ちた表情で人間たちに、社会を生き延びるための「メメント・モリ(死を思え)」の教訓を教えようとしていた。

・ガイジャトラの祭り(日本のお盆のようなもの)は、生者だけがこの世界の住人ではないことを自覚させる。生の世界は広大な死の世界に包まれおり、私たちは短い間だけ死の領域を出て、こちらの世界を楽しんだ後、再び死の領域に戻っていく存在であるという、人類の古くからある認識を思い出させる。

・ムンツァム(暗黒瞑想)の体験をすると、人の心のとてつもなく大きな慈悲心が湧き上がる。有情に対する共感と同情が込み上げてくる。人類が皆こういう体験をすれば世の中はもう少しよくなる。


その時々に書かれた記録や思索はネパールの空気のように澄んでいて、活字を通して青空や流れる水を体験した気分になった。秘儀の体験を言葉にする困難さもあり、内容はあまり理解できなかったが、時を置いてもう一度読んでみようかと思った。


精神の考古学

精神の考古学

  • 作者: 中沢新一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2024/02/15
  • メディア: Kindle版




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一升枡の度量 [読書日記]

池波正太郎のエッセイを集めた文庫本「一升枡の度量」(ハルキ文庫)を読む。いろんな雑誌などに書いたものをまとめたものなので、時代ものから身辺雑記のような話まであった。鬼平のファンだったので手に取ったのだが、池波氏が新国劇の座付き作家のようなことをしていたのは知らなかった。


東京下町生まれで、大学などへは行かず最初は丁稚奉公のようなことをしていた。裕福ではなく貧しかったが、食うに困ることはない。隣近所で助け合う江戸の街の暮らしぶりが懐かしく描かれていたりした。


大の酒飲みで知られる作家。仕事が行き詰まって飲むことはしない。酒飲むのは楽しい気分の時だけ。「毎日、晩酌しているのなら、毎日楽しいんですか」と問われて、「そうです。一日中つまらなかったのは1年に2日か3日です」と答えたという。自分もそうありたいと思った。


一升桝の度量

一升桝の度量

  • 作者: 池波 正太郎
  • 出版社/メーカー: 幻戯書房
  • 発売日: 2011/05/01
  • メディア: 単行本

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