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センスの哲学 [読書日記]

「センスの哲学」という絶妙なタイトルに惹き寄せられて本を手に取った。立命館大の千葉雅也教授著。センスとはそもそも何なのかという命題の解説より、美術が興味のメインにある著者が芸術全般への接し方を説き、暮らしに芸術を取り入れることを勧めるくだりに心を動かされた。


例えば絵画。作品の意味を理解するだけではなく、絵画の中にリズムを見出す鑑賞のあり方を説く。映画も音楽もリズムで読み解くことができ、Chat GPTの生成する文章は、脱意味化されたリズムであると。ライフハックとして、何かをやるときには、実力がまだ足りないという足りなさに注目するのでなく、「とりあえず手持ちの技術と、自分から湧いてくる偶然性で何ができるか」というふうに考えるという。


・芸術に関わるとは、そもそも無駄なものである時間を味わうことである。

・現実の目的達成と違い、芸術は多様性や相対性を教えてくれる。人生のリズムもいろいろでいいじゃないかと。

・映画でも真意を見抜けるだろうかと自分を責める見方はしない。自分にはここが気になる、それだけでOK。


センスの哲学 (文春e-book)

センスの哲学 (文春e-book)

  • 作者: 千葉 雅也
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2024/04/05
  • メディア: Kindle版

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 [読書日記]

安部公房の芥川受賞作「壁」を読む。1951年、27歳の時の受賞作品。解説によると、砂漠や壁といった安部の好むモチーフが出ていて、その後の作品につながっていったという。


S・カルマ氏の犯罪、バベルの塔の狸、赤い繭の3部構成だが、第2部のバベルの塔の狸が一番面白かった。影を盗まれて透明になった男(眼だけは見える)と、影を食べた狸。寓話の建て付けで人間の実存について語る。


どの物語にも壁(都会の片隅の狭い部屋の中など)が出てくるのだが、読んでいて村上春樹の「街とその不確かな壁」に出てきた風景を頭の中に思い描いてしまった。シュールレアリスムの世界観、どこか通じるものがあるような気がする。


壁 (新潮文庫)

壁 (新潮文庫)

  • 作者: 公房, 安部
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2024/05/09
  • メディア: 文庫

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わしの眼は十年先が見える [読書日記]

倉敷に紡績会社を興し大原美術館に名前を残す「大原孫三郎の生涯」と副題のついた評伝。かの城山三郎の著作である。先日行った岡山・倉敷観光の折に見つけた文庫本をさっそく読了した。


ストレートなタイトル通り、先進的な取り組みを企業の枠からはみ出して行い、孤児院や社会・労働問題研究所、病院などを次々と立ち上げた。孫三郎は、企業の本分は人を育て、地域を繁栄に導く社会貢献にありとの信念を貫き通したという。


石井十次をはじめ多彩な友との出会いを大事にし、学者や社員らを海外へ送り学ばせた。知識や経験を「自得」することが大事とし、自らはもっぱら耳学問で「不学の大学者」と呼ばれたのが面白い。地方の資産家に群がる人たちに気前よく金を出したようで、いわゆるノブリス・オブリージュを実践した人と言える。もちろん毀誉褒貶はあったろうが、明治の気骨のある人だったらしい。企業群や美術館に加え、有名な研究所や倉敷中央病院までも作った人だとは知らなかった。人との出会いの大切さを教えてくれる一冊だった。


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大原美術館のホール


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赤い屋根が印象的な倉敷中央病院


わしの眼は十年先が見える: 大原孫三郎の生涯 (新潮文庫)

わしの眼は十年先が見える: 大原孫三郎の生涯 (新潮文庫)

  • 作者: 三郎, 城山
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1997/05/01
  • メディア: 文庫

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暇と退屈の倫理学 [読書日記]

國分功一郎さんの「暇と退屈の倫理学」を読む。ハイデッガーやニーチェら哲学者の言葉を批判的に論じながら、暇と退屈が抱える問題点を探る。論理的な思考の進め方が明晰で楽しい。


動物と人間の違いを語る第6章の人間学が秀逸。動物にはそれぞれの視界があり、時間がある。「環世界」という概念で、生き物によって生きている空間や時間軸が変わるという考え方にいたく感動した。人間は「環世界移動能力」が高いという特徴があり、それが動物との違いであると指摘する。


人はいつしか「なんとなく退屈」して「気晴らし」を求める。退屈するのは贅沢であり、退屈する間もなく労働に汗を流す人もいる。ただ世界が平和で皆が豊かになればなったで(そんなことはあり得ないだろうが)、人は退屈し興奮を求めて争いの場を作り出す。結論は消費社会における現代人の退屈に言及する。人は消費ではなく、浪費をすべきで、それこそが気晴らしであるという。


暇と退屈の倫理学(新潮文庫)

暇と退屈の倫理学(新潮文庫)

  • 作者: 國分功一郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2021/12/23
  • メディア: Kindle版

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ボクの音楽武者修行 [読書日記]

今年2月6日に亡くなった世界のマエストロ小澤征爾の「ボクの音楽武者修行」を読了した。26歳の駆け出し指揮者だった小澤が綴った青春記。音楽が好きでクラシックの故郷ヨーロッパに単身乗り込む若き日の小澤青年、なんと純粋で瑞々しいことか。

今のように気軽に海外へ行けない昭和30年代。貨物船に乗せてもらい、上陸してからはスクーターでパリを目指す。決して裕福な家柄ではなく、金の工面などはいろいろと苦労したことなどを初めて知った。クラシックファンでなくとも知っているカラヤン、バーンスタイン、ミュンシャといった巨匠に教えを乞う。ブザンソン、タングルウッド、ベルリン、ニューヨークといった街のコンクールやオーケストラの指揮者として、ひたすらスコアを読み勉強する日々が綴られている。


指揮者によってオーケストラのアンサンブルの良し悪しが決まる。まさに棒振り屋の腕次第。久しぶりにクラシックを聞くかなと思ったりする。江戸京子(後の妻)、田中路子(欧州在住のオペラ歌手)、広中平祐(ノーベル賞の数学者)といった著名人との出会いも書かれていて興味深かった。


ボクの音楽武者修行 (新潮文庫)

ボクの音楽武者修行 (新潮文庫)

  • 作者: 小澤 征爾
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2024/04/09
  • メディア: 文庫

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アメリカ映画の文化副読本 [読書日記]

「アメリカ映画の文化副読本」(渡辺将人著)を読む。邦画が受賞した今年のアカデミー賞もあり、ハリウッドシネマ関連の一冊を手に取った。外国の映画と言えば、圧倒的に米国産が多い。でも、どのくらい米国社会のことを知っているかというと、意外と知らなかったりする。娯楽映画なら細かい設定は気にしないが、シリアスものだと結構「なぜ」というところがありながら、そこをすっ飛ばして鑑賞しているのだと思う。


例えば、ニューヨークのマンハッタンでも住む地区によって「人種」が違う。ハーレム、アップタウン、ミッドタウン、ダウンタウン。アップタウンでもセントラルパークを挟んで西と東で住人が違ってくる。映画では主人公がどこに住んでいるかが重要で、それによって社会での地位やライフスタイルの描き方が違ってくるという。若い時にニューヨークに行っておけば、もっとハリウッド映画が楽しめたのにと思ったりした。


今年は4年に一度の大統領選イヤー。米国という国はなくて、それぞれの州が小さなクニ。西海岸と東海岸では、文化はまるっきり違う。世界共通語である英語が母語である合衆国の人たちは外国語を習わないのが一般的で、そもそも外国語大学などはないという。外国語を知らなくてもビジネスで困ることはあまりない。習う人もスペイン、フランス、ドイツ語で小学校から英語を習う日本のようなことはない。そのことが米国人にとっていいことなのかどうかは分からないが。いろいろと紹介してあるハリウッド映画を今度の連休にでも見てみようかと思う。


アメリカ映画の文化副読本

アメリカ映画の文化副読本

  • 作者: 渡辺将人
  • 出版社/メーカー: 日経BP 日本経済新聞出版
  • 発売日: 2024/01/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)





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もう明日が待っている [読書日記]

放送作家の鈴木おさむ著「もう明日が待っている」を読む。あの国民的アイドルグループSMAPの誕生から解散までを小説仕立てで描く。彼らの近くにいたスタッフとして、親しみを込めてアイドルと、その時代を記録していて面白かった。


芸能好きなので、たまにこういった内幕モノめいた本を読みたくなる。鈴木おさむは今年でテレビの仕事から引退を宣言していて、タクヤと同い年の仲間としてスマスマを作り、彼らと並走した日々を一冊に残しておきたかったらしい。


ジャニーズ事件の「あの人」からの指示に逆らえず、解散に至ったエピソードが一番の読みどころ。月曜10時のバラエティ番組内での異様な生放送は記憶に残っている。再結成のウワサを聞く昨今、中年アイドルの復活はあるのだろうか?


もう明日が待っている (文春e-book)

もう明日が待っている (文春e-book)

  • 作者: 鈴木 おさむ
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2024/03/27
  • メディア: Kindle版



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東大生と学ぶ語彙力 [読書日記]

難しいことをやさしく書いてあるので、たまに読むジュニア新書。ちくまプリマー新書の「東大生と学ぶ語彙力」(西岡壱誠著)を読む。常々、小さい頃から外国語を学ぶより、まず日本語の語彙の力こそ付けるべきだと考えている。この本は受験を制するにも問題文を正しく読み解く語彙力が必要だと説く。その通りだと思う。


数学に苦手意識がある自分。今でも必要条件と十分条件、数学的帰納法と演繹法という話を聞くと、モヤモヤする。たぶん、その言葉が出てきた時にキチンと理解していれば理系に進んだろうにと、今更ながら思う。必要十分条件では、豆腐料理の話で、帰納法と演繹法は野菜好きの話で分かりやすく解説してある。


得意の社会でも食糧と食料の違い(食糧は主食、食料はその他の食べ物も含む)を再確認したし、歴史というのは結局は領土の奪い合いがテーマになっていると指摘され、確かにと頷く。日本語の小説を英語に訳す勉強法でもっと語彙力が高まるという話を読み、かつてフランス語を勉強して日本語の言葉の奥深さを感じたことを思い出した。古語の「こころ」という言葉の多様性も頭に残った。古語辞典を久しぶりに開いた。


東大生と学ぶ語彙力 (ちくまプリマー新書)

東大生と学ぶ語彙力 (ちくまプリマー新書)

  • 作者: 西岡壱誠
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2023/12/07
  • メディア: Kindle版

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コロナと潜水服 [読書日記]

奥田英朗の短編集「コロナと潜水服」を読む。何かストーリーが読みたいと思った時は、最近は奥田英朗。たまたま読んでない短編集があり、メルカリで手に入れて読んだ。


タイトルになっている作品は、まさにコロナ自粛期間の真っ只中に書かれた一編。どこで感染るかわからない未知のウイルス。世界がパニックになった4年前を思い出す。読みながら、忘れていた不安な気持ちが蘇ってきた。考えてみれば、あの時の在宅ワークはすっかり会社に定着し、ズーム会議、ズーム飲みも普通になった。作品を読みながら、過去のこととしてコロナの時代を読んでいるのだ、客観視できるようになったのだと時の流れを感じたし、感染症と戦ってきた人類の歴史、人類のしたたかさを改めて思ったりした。


どの作品も日常生活でありそうなシチュエーションを「奇想」でもって、予想外の方向へ展開していく。でも最後は、「そうだよね」という暖かなところにおさまる。真っ当な人生の考え方、愛のあるストーリーテラーだと思った。


巻末に作品中に出てくる楽曲のプレイリストが付いていた。QRコードを読み込むと、Spotifyに飛び曲のさわりが聞けるという趣向。面白い試みだと思った。


コロナと潜水服 (光文社文庫)

コロナと潜水服 (光文社文庫)

  • 作者: 奥田 英朗
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2023/12/12
  • メディア: Kindle版

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イプセン [読書日記]

井上ひさしの戯曲講座「芝居の面白さ、教えます」<海外編>のイプセンの項を読む。近代演劇の始祖、問題演劇を書き始めた人と言われるノルウェーの劇作家。近年海外でも再評価が進み、舞台で上演される演目が増えているという。


演劇とは、という問いに対する言葉がいくつか。

・私たちが見ないで済ましていることや、見ようとしても見えないものを舞台にしたり小説に書いたり絵で描いたりすると、それを見たり聴いたりした人たちは、自分の心の奥の方にあって、普段はなるべく見ないようにしていることに気づかされる。

・演劇の本質というのは、今の社会で生きている人たちが持っている心の中の、何か見ないふりをしている大事な問題を舞台に出すこと。手法はあまり関係ない。


「ヘッダ・ガーブレル」と「人形の家」を題材に講釈が進むが、導入部の見事さを絶賛し、芝居をやる人はお手本にすべきだと指摘する。イプセンの「市民の家庭の中から社会の問題を書く」というスタンスが、当時の演劇界では新しかった。それは今も変わりがない。


「レトロスペクティブ・テクニック」=懐古分析法は、登場人物の履歴・過去を細かく設定しておき、その中から必要なものだけをバラバラにして舞台の会話の中に当てはめていく手法。演劇的アイロニーという言葉も知った。


目標がないと人間は生きられない。しかし、その目標を達成すれば幸せかというと、必ずしもそうではない。こうした自己実現というのは不毛なのか。「人形の家」では、そうした時代の病とも言えるテーマを掲げている。女性の自立の物語として読まれることが多いが、それだけではない。


人形の家(新潮文庫)

人形の家(新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2024/02/10
  • メディア: 文庫
ヘッダ・ガーブレル (岩波文庫 赤 750-5)

ヘッダ・ガーブレル (岩波文庫 赤 750-5)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1996/06/17
  • メディア: 文庫

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