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人工知能の見る夢は [読書日記]

「人工知能の見る夢は」と題したAIショートショート集を読む。人工知能学会の学会誌に掲載されたSF作家のショートショートをテーマ別にまとめ、それに専門家が解説を付けている。知能、心、人間とコンピュータの違いなどについて、SFは古くから思考実験を行なってきた。対話システム、自動運転、環境にある知能、ゲームなどでAIが現実社会に影響を与えつつある時代。SF作品に書かれたことがSFではなくなりつつある世界を改めて実感する。


一部導入されている自動運転は、経済の活性化と高齢社会の課題解決に大きな期待がかかる。チャットGPTは事務処理や創作補助に可能性が見出されている。著作権や倫理面での課題は多々あるものの、AIなしの未来はもはや想像できないところまで来ている。よく出来たショートショートを読みながら、そんなことを考える。


ショートショート集が文春文庫になったのは2017年。すでに7年近く経っていて、秒進分歩のデジタル社会ではAI専門家の解説文もかなり時代遅れになっているのかも(門外漢の自分には目新しい話ばかりだったが)。とはいえAIの入門には楽しい一冊だと思う。


人工知能の見る夢は AIショートショート集 (文春文庫)

人工知能の見る夢は AIショートショート集 (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/08/04
  • メディア: Kindle版
AIが書いたAIについての本

AIが書いたAIについての本

  • 出版社/メーカー: フローラル出版
  • 発売日: 2023/03/20
  • メディア: 単行本
生成AIは電気羊の夢を見るか?

生成AIは電気羊の夢を見るか?

  • 作者: 増田 悦佐
  • 出版社/メーカー: ビジネス社
  • 発売日: 2023/09/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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山の人生 [読書日記]

遠野物語と対をなすといわれる柳田国男の「山の人生」を読了。神隠しや天狗、山姥など怪異談として伝承されている話の起源を探り、そこに日本列島の先住民の姿を見出す。大正時代に書かれた著作だが、すでにその頃には忘れられた物語になりつつあった数々のエピソードを各地の資料や聞き取りによって掘り起こしている。山人(やまびと)と呼ばれる人たちがいたことなど思いもしなかったが、昔話にもそうした痕跡があることに驚いた。

我々の先祖たちは、怜悧で空想力豊かな子どもが時々変になって、凡人の知らぬ世界を覗いてきてくれることを望んでいた。たくさんの神隠しの不可思議を信じようとしていた。女性が忽然と姿を消したのは、山人が嫁として攫っていったケースも多かったのではないかと推測も。以前聞いたことのある「サトリ」という怪物(人の腹で思うことをすぐ覚って、逃げようと思っているななどと言い当てる)が山中にいる話も出てきて、いろんな事実の断片が様々な言い伝え、民話、迷信などとして残っているのを知った。

山で生活していた先住民がいなくなったのは、同化政策や百姓社会に併合されたり、人知れず土着したりしたらしい。それでも明治の頃までは山中を漂泊していたらしく、目撃譚も多く残っているという。アジアを中心に多くの血が混じっていると思われる日本人だが、山人の血を濃く受け継ぐ人もきっといるに違いいない。


山の人生 (角川ソフィア文庫)

山の人生 (角川ソフィア文庫)

  • 作者: 柳田 国男
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2013/01/25
  • メディア: 文庫



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芝居の面白さ、教えます 井上ひさしの戯曲講座<日本編> [読書日記]

井上ひさしの戯曲講座「芝居の面白さ、教えます」を読んだ。仙台での連続講座を収録していて、真山青果、宮沢賢治、菊池寛、三島由紀夫、安部公房の戯曲について、評価を交えた解説をする。それぞれの伝記的事実を存分に語っていて、その蘊蓄に感心した。

中でも宮沢賢治の項は宗教家で科学者で教育者で作家・劇作家である奇人の姿をたっぷり語っている。貧しい東北の農民を何とか救おうとする賢治の多彩な行動の原点が理解できた。賢治の小説における朗誦性についても高く評価していて、村上春樹や吉本ばななの文体も賢治を読み込んでいるはずと分析している。

三島由紀夫の戯曲「鹿鳴館」を解説しながら、自決を知った当時は「あの人は、書くことがなくなったんだ」という感想を持ったと述懐している。いい小説をどんどん書ける自信があれば、作家は自殺しないと。

演劇論としてとても面白く、初めて知ったことが多かった。
・歌舞伎は目で楽しむもので、戸板返しなど派手な演出で「見せる」が日本の演劇の主流だった。
・いい作家・劇作家は自分の文体を持っている。司馬遼太郎は文学的に洗練された文章では入れにくい「これは余談だが」という言葉をあえて挟んでいく。自分で言いたいことを全部言える文体を考えた。
・スタニスラフスキー・システム(心理主義)は役に成り切る。文学座、俳優座、民藝、新劇は全てこのシステムだった。これに対してブレヒトの「三文オペラ」など逆の方法論(表現主義)が出てきた。

いい言葉がいっぱい出てくる一冊。
「やるだけのことやって、いい一生だったと、ニコッと笑ったときに、その瞬間が永遠に固定される。死ぬ瞬間が勝負だと思っている」
井上さんの言う通りだと思った。


芝居の面白さ、教えます 日本編

芝居の面白さ、教えます 日本編

  • 作者: 井上 ひさし
  • 出版社/メーカー: 作品社
  • 発売日: 2023/07/19
  • メディア: 単行本



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白鶴亮翅 [読書日記]

多和田葉子さんの「白鶴亮翅」を読了。「はっかくりょうし」は太極拳の形の一つで、鶴の羽を広げる動きを表す。在ドイツ作家の体験談かしらと思う人々との出会い、交友のあれこれがユーモアを交えながら綴られる。

隣人に誘われ通い始めた太極拳教室が交流の場。ドイツ人、中国人の先生、南米、フィリピンからの移民など、いろんな出自の生徒がそれぞれの目的を持って集まる。ドイツ人の中にもポーランドやロシアから「引っ越してきた」人もいて、ドイツ人で一括りにできない現実を知る。島国ニッポンより複雑なヨーロッパの民族地図が作品の背景にある。

プルーセン人という今はドイツに吸収されてしまった民族の歴史を辿る隣人のパートナーの話が心に残る。自らのルーツを辿るのではなく、プルーセン人の世界観が好きだからという理由で歴史研究に打ち込む。ロシアのウクライナ侵攻やパレスチナとイスラエルの紛争を思い起こさざるを得ない民族を巡る問題。民族で考えると大昔からの対立や経緯が絡み合い、解決の糸口は見つからないだろう。だから、民族を越えてそれぞれ一人の人間として、隣人として、日々の暮らしをしていけば良いのではないか。作品はそんなことを考えさせてくれた。

以下は、太極拳に関する余談。作品に出てくる二十四式太極拳は毛沢東が命じて作らせた。中国で生まれた武術・太極拳は100を超える形がある。身体を整える(気を整える)ため毎朝行うには時間がかかりすぎるとして簡易版を作ったという。私が東京在住の際習っていた太極拳は台湾の王樹金老師が日本に伝えた世宗太極拳で形が九十九勢ある。基本は最初の十字手までの十四勢。渋谷に道場があるのでご興味のある方はどうぞ。
http://www.taikyokuken.co.jp


白鶴亮翅

白鶴亮翅

  • 作者: 多和田 葉子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2023/05/08
  • メディア: Kindle版





改訂新版 太極拳全

改訂新版 太極拳全

  • 作者: 地曳秀峰
  • 出版社/メーカー: 東京書店
  • 発売日: 2018/03/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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見仏記 [読書日記]

みうらじゅん&いとうせいこうの「見仏記」を読む。みうら氏の「マイ仏教」を読んだ流れで文庫本を手に入れた(新品はないのでメルカリで古本をゲット)。30年ほど前に単行本が出ているのだが、まあ若い時はこんな渋いテーマには飛びつかないわなあ。同い年のみうら氏は少年の頃からの仏像ファンという筋金入りの変わり者。自分はこの歳になってやっと仏像の味わい方を知った。

仏像に渡来文化の名残りを発見するのはともかく、その体型にセクシーさを感じ、恐ろしいマスクに怪獣のルーツを思うという、ある意味、突飛な見仏記。お寺の方に叱られることもあったろうが、何事にも寛大なところ、寛容の精神こそ仏教のココロ。仏様を「仏(ブツ)」と呼び、グッとくる仏を求めて全国を巡る二人旅がシリーズ化したことが、それを証明している。

みうら氏の楽しいイラストが挟まれているとはいえ、文庫本では仏像の写真が見れないのがやはり不満。その後テレビ見仏記が放送されていて、DVDを大人買いするかと悩んでいる。京都・奈良に集結する仏像スター軍団を見に行きたい気持ちが一気に高まっている。


見仏記 (角川文庫)

見仏記 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2013/05/31
  • メディア: Kindle版



見仏記2 仏友篇 (角川文庫)

見仏記2 仏友篇 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2013/05/31
  • メディア: Kindle版



見仏記3 海外篇 (角川文庫)

見仏記3 海外篇 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2013/05/31
  • メディア: Kindle版



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仏像のひみつ [読書日記]

みうらじゅん・いとうせいこうの「見物記」の影響で、以前あった東京国立博物館の人気展示を担当した山本勉さんの著書「仏像のひみつ」を手にとる。親子連れにわかるようやさしく書かれた仏像の見方の入門書で、実に簡単で分かりやすかった。

如来、菩薩、明王、天の順でエライという序列さえ覚えるだけでも頭の整理ができる。仏教はインド発祥とはいえ中国や朝鮮半島、中東などの影響もあって、日本列島に渡来するまでにいろんな神様が混じっている。仏像もいろんな物語が作られて、如来であっても釈迦如来、薬師如来、阿弥陀如来と種類がある。仏像の種類だけストーリーがあるわけで、このワクワク感はまさに怪獣やポケモンと一緒だと思う。

あまり興味がなかった中学の修学旅行で見たっきり仏像なんて訪ねたことがない。京都・奈良に足を伸ばさなくても地元の仏像から見仏に行こうかと思ったりする。


仏像のひみつ

仏像のひみつ

  • 作者: 山本 勉
  • 出版社/メーカー: 朝日出版社
  • 発売日: 2006/05/27
  • メディア: 大型本



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夕暮れの時間に [読書日記]

先日亡くなった山田太一さんのエッセイ集「夕暮れの時間に」を読む。男たちの旅路、ふぞろいの林檎たちといったドラマで時代を映してきた脚本家。数ある著作の中でタイトルに惹かれてKindleで読んだ。

河出文庫の巻末に病気退院後のインタビューがあり高齢者になってからの文章と知る。これまでの仕事にまつわる話や出会った人々、書評が主な内容。静かで穏やかで遠慮深い人柄が表れていた。全編に言葉へのこだわり、脚本家だけに誰かが喋って頭に残っているという一節が載っていて、つい書き留めたくなるフレーズがいくつか。以下に記す。

小津安二郎の確信(中野翠がいう)
人の心の、人の世の、ダークサイドにばかり真実がひそんでいるのではない、キレイゴトの中の真実を描くほうが案外難しいんじゃないか

物語と小説の違いは、小説には人生があり物語にはない。
物語はありそうもない話の楽しさがあり、そこに込められる寓意、端的な人生の要約もある
小説は「ありそうもない話」も、人生の細かな本当を積み上げて「ありそうな話」にしてしまう装置である(パトリス・ルコントの「ぼくの大切なともだち」に関連して)

吉野弘
魂のはなしをしましょう
魂のはなしを!
なんという長い間
ぼくらは魂のはなしをしなかったんだろう

永井荷風の言葉
中年のころから子供のないことを一生涯の幸福と信じていたが、老後に及んでますますこの感を深くしつつある
生きている中、わたくしの身に懐かしかったものはさびしさであった。さびしさの在ったばかりにわたくしの生涯には薄いながらにも色彩があった


夕暮れの時間に (河出文庫)

夕暮れの時間に (河出文庫)

  • 作者: 山田太一
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2018/05/25
  • メディア: Kindle版



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イケズな東京 [読書日記]

昔からファンの井上章一さんの新書「イケズな東京」を読了。建築史家である井上さんと、東京在住で京都市美術館長の建築家・青木淳さんのリレーエッセイと対談を収録した一冊。コロナ禍の3年に新聞に掲載されたエッセイに、後で対談を加えた形だが、息苦しいコロナ自粛の日々を思い出しながら読んだ。

コロナの頃に言われたのは、在宅リモートでの仕事が定着し大都会東京に本社を置く意味はない。企業の地方分散がリードする形で、皮肉にも東京一極集中是正が進むのではないかということだった。その点について井上さんは、歴史的な観点から事はそう簡単ではないと指摘する。かつて大名が天守閣を建て威厳を示したように、企業も東京に城を持つことがステイタスであり、その風潮は簡単には崩れないだろうという。

東の京である東京を、古からのみやこ京都と比較しながら、都市開発のレガシーにも話が及ぶ。五輪はもともとパリ万博の余興として始まったという蘊蓄になるほどと思う。昨今は五輪の方が万博より注目される世界イベント。今や最先端技術の発表の場は万博ではなく、アップルやトヨタのようにそれぞれの企業がネットで世界に配信する時代になった。注目度もすっかり落ちている中で、本当に2度目の大阪万博をやる意味はあるのか。パリは万博で作られた街を大事に育んできた。次のパリ五輪では、その施設、街全体を会場にして競技を行う計画だ。大勢の人ではなく、好きな人たちが好きな競技を見る。ベルサイユ宮殿で馬術が行われる、その背景が歴史的遺産。新たな施設を作りまくった東京五輪より、一歩先を行っているなあ。


イケズな東京-150年の良い遺産、ダメな遺産 (中公新書ラクレ 751)

イケズな東京-150年の良い遺産、ダメな遺産 (中公新書ラクレ 751)

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2022/01/07
  • メディア: 新書



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マイ仏教 [読書日記]

敬愛するみうらじゅんさんの「マイ仏教」を読む。生き方の流儀、楽な気持ちで過ごす術が「みうら流」の語り口で綴られている。仏像ファンとは知っていたが、小さい頃から仏像好きでお坊さんになりたかったとは知らなんだ。筋金入りの仏教徒なのだった。

人生は苦。世は諸行無常。だけど、そこがいいんじゃない!
「そこがいいんじゃない!」と自ら呟き、人生を歩んできたと明かす。本人は悟りには遠いと宣うが、いやどうしてどうして。なかなかの強者ですよ。街角般若心経といった取り組みも、その真意を知り、なるほどと思った。

・マイブームに限らず、音楽でも文学でも美術でも、「何かを発表する」という「自分売買」を伴う行為は全て「機嫌をとる」ことから逃れられない。「人に何かを見せたい」という行為と「機嫌をとる」という行為にさほどの違いはない。

・モノマネは「自分なくし芸」。自分探しより自分なくし。自分をなくすと、機嫌をとるを同時にできている。

・言葉を上手に使ってポジティブになる。苦しい時も「そこがいいんじゃない!」と唱え、言葉で脳を洗脳していく。不安なときには「不安タスティック!」。自分だけの念仏を唱える。

表現者として生きる自分にとって、よき指針となる一冊となった。


マイ仏教 (新潮新書)

マイ仏教 (新潮新書)

  • 作者: みうらじゅん
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/07/01
  • メディア: Kindle版



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ハンチバック [読書日記]

遅ればせながら、市川沙央さんの第169回芥川賞受賞作を読む。筋疾患先天性ミオパチーによる症候性側彎症の作者が自らの生活を題材に常日頃思っていること、頭の中の考えを文章に叩きつけた作品だ。100ページ足らずの短編だが、この病気を患っていない人にはわからない苦しさ、体が思うように動かないもどかしさがひしひしと伝わってくる。

作品によると、人工呼吸器を使い電動車椅子で移動する。喉に痰が詰まらないように常に気を付けながら、創作活動を行うのだろう。ケアする人がいるとはいえ、在宅のためスタッフの都合が付かなければ、シャワーも使えない思いをする。障害がある人のケアをするスタッフの人材不足はとても深刻なのだ。

「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」という主人公。障害があるなしに関係なく、誰もが平等に暮らせる世の中はまだまだ遠い。ダイバーシティという言葉が日本語に定着するのはいつのことだろう。そんなことをつらつらと考えたが、作者が言いたかったのはこんなことではなかったのだと思う。「せむし」というタイトルからして、自虐的な構えをしながら、世間に一発食らわせる企みがあったのではないか。


ハンチバック (文春e-book)

ハンチバック (文春e-book)

  • 作者: 市川 沙央
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2023/06/22
  • メディア: Kindle版



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