画家熊谷守一を知ったのはことし1月の回顧展。シンプルでカラッと明るい絵の虜になった。その画家夫婦の映画というので、さっそく銀座シネスイッチに見に行ってきた。守一94歳と妻秀子76歳のちょっと風変わりな生活という謳い文句だが、山崎努演じる守一に見入ってしまった。


自宅の庭の虫や、池の魚を観察し、外に出ることなく創作を続けたという。地面に這いつくばって蟻の行列をじっと見る。手のひらの石を凝視する。しかし決して奇人というわけではない。ただ観察に没頭している。


超俗の人、画壇の仙人と呼ばれたらしい。でも近くにマンションが建つと、庭に日が当たらなくなり、絵を描くのに支障が出ると、庭の改造を考える。絵を描くことが人生で、すべては絵のため。仙人ではなく、ただの画家でいたかったということだろう。樹木希林演じる妻は、それを分かっていて支えている。老後にいくら必要なんて考えずに、好きなことをして生きていく。そんな人生が理想だなと、あらためて思う。