前の20件 | -
すずめの戸締まり [シネマ&演劇]
3・11に新海誠監督の「すずめの戸締まり」を見た。家族が不在で、たまには映画でも見るかとチケットを予約した日が3・11だった。その日だけ上映回が増えているのに後で気づいて、東日本大震災から12年の日だと思い出した。
地震の話で3・11の被災者にはストーリに複雑な思いがあると聞いていた。南海トラフの宮崎南部から四国、神戸、東京、そして東北と、物語は地震列島を北上していく。地震を起こす地底の力を表すミミズが青空に伸びていく異様な景色は恐ろしく不気味だった。かつて住んでいた東京の住居付近であるお茶の水の地下鉄丸の内線が地上に顔を出すトンネルの出口。そこからミミズが出てきて東京の空にトグロを巻く。要石から解放されたネコのダイジンが「100万人が死ぬよ」と可愛い声で囁く。恐ろしい言葉に鳥肌が立った。
要石にされた閉じ師の若者をすずめが助け出すのは予定調和のストーリーだが、母を失った幼いすずめを育てた叔母たまきとの関係、姉の娘の子育てで青春を奪われた体験は、多くの犠牲者を出した被災地ではよくある話で、同じ思いをしている人があるんだろうなと胸に刺さった。そして涙が止まらなかった。自分が被災者だったら3・11にこの映画は見たくないと思った。
地震の話で3・11の被災者にはストーリに複雑な思いがあると聞いていた。南海トラフの宮崎南部から四国、神戸、東京、そして東北と、物語は地震列島を北上していく。地震を起こす地底の力を表すミミズが青空に伸びていく異様な景色は恐ろしく不気味だった。かつて住んでいた東京の住居付近であるお茶の水の地下鉄丸の内線が地上に顔を出すトンネルの出口。そこからミミズが出てきて東京の空にトグロを巻く。要石から解放されたネコのダイジンが「100万人が死ぬよ」と可愛い声で囁く。恐ろしい言葉に鳥肌が立った。
要石にされた閉じ師の若者をすずめが助け出すのは予定調和のストーリーだが、母を失った幼いすずめを育てた叔母たまきとの関係、姉の娘の子育てで青春を奪われた体験は、多くの犠牲者を出した被災地ではよくある話で、同じ思いをしている人があるんだろうなと胸に刺さった。そして涙が止まらなかった。自分が被災者だったら3・11にこの映画は見たくないと思った。
失われた時を求めて〜ゲルマントの方 [読書日記]
第3編「ゲルマントの方」を読む。スワン家と反対側の道を行くとあるゲルマント家の人たち。憧れの公爵夫人に会うため友人の伝手を辿ってようやく晩餐会に行く。歴史や物語に登場する名家の名前たち。広大な屋敷に華やかな出立ち、高貴な口ぶり。でも、そこで口にされる話題と言ったら・・・滑稽で醜い人たちの言動を事細かに記してサロンの実態を描く。
ドレフュス事件という当時の世論を二分した大事件の話が出てくる。ユダヤ人への差別意識は、日本でいう在日差別と同根のもののようだ。作者のプルーストの母親がユダヤ人であり、同性愛ととともに当時のマイノリティーの置かれた立場が作品の主題の一つであることは疑いがない。
この編では元カノのアルベルチーヌが成長した姿を見せたり、大好きだった祖母が天国に召されたりする。以下は印象に残った節とトリビア。
・「このような無用な時間、快楽を待つ奥深い控室のような時間、それを私は知っていた。かつてバルベックで皆が夕食に行ってしまい、一人で自分の部屋にいた時に、こうした時間の持つ暗いけれども快い空しさを経験した」
・当時のフランスでは、高貴な人に対しては三人称で呼ぶ習わしがあった。


ドレフュス事件という当時の世論を二分した大事件の話が出てくる。ユダヤ人への差別意識は、日本でいう在日差別と同根のもののようだ。作者のプルーストの母親がユダヤ人であり、同性愛ととともに当時のマイノリティーの置かれた立場が作品の主題の一つであることは疑いがない。
この編では元カノのアルベルチーヌが成長した姿を見せたり、大好きだった祖母が天国に召されたりする。以下は印象に残った節とトリビア。
・「このような無用な時間、快楽を待つ奥深い控室のような時間、それを私は知っていた。かつてバルベックで皆が夕食に行ってしまい、一人で自分の部屋にいた時に、こうした時間の持つ暗いけれども快い空しさを経験した」
・当時のフランスでは、高貴な人に対しては三人称で呼ぶ習わしがあった。

失われた時を求めて 5 第三篇 ゲルマントの方 1 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2006/08/18
- メディア: 文庫

失われた時を求めて 6 第三篇 ゲルマントの方 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2006/08/18
- メディア: 文庫
失われた時を求めて〜花咲く乙女たちのかげに [読書日記]
第2篇「花咲く乙女たちのかげに」を読了する。タイトル通り語り手の主人公が乙女たちに恋する様、その心情が延々と語られる。例によってさまざまなイメージが想起され、次々と登場する人物たちが主人公に刺激を与える。
初恋の相手はジルベルト。スワンとオデットの娘だ。サロンが開かれる自宅に通い詰め、恋の喜びに浸り、やがて熱が冷める。パリのシャンゼリゼが出会いの場所で、今とは違って移動手段は徒歩か馬車。19世紀の頃からレストランがあり、それが今でも続いているといった訳注に当時の情景を想像する。花の都の歴史に思いを馳せた。
後半では、保養地での少女たちに夢中になる。アルベルチーヌが率いる一団。ブルジョアと貴族、ユダヤ人といった登場人物により、その頃に始まった格差社会や差別の構造が描かれ、それが物語の背景になっている。プルースト自身がユダヤの血を引いており、社会が発展していく中で次々と吹き出す新たな問題へ関心が高かったのがよく分かった。

初恋の相手はジルベルト。スワンとオデットの娘だ。サロンが開かれる自宅に通い詰め、恋の喜びに浸り、やがて熱が冷める。パリのシャンゼリゼが出会いの場所で、今とは違って移動手段は徒歩か馬車。19世紀の頃からレストランがあり、それが今でも続いているといった訳注に当時の情景を想像する。花の都の歴史に思いを馳せた。
後半では、保養地での少女たちに夢中になる。アルベルチーヌが率いる一団。ブルジョアと貴族、ユダヤ人といった登場人物により、その頃に始まった格差社会や差別の構造が描かれ、それが物語の背景になっている。プルースト自身がユダヤの血を引いており、社会が発展していく中で次々と吹き出す新たな問題へ関心が高かったのがよく分かった。

失われた時を求めて 第二篇 花咲く乙女たちのかげに 全2巻セット (集英社文庫ヘリテージシリーズ)
- 出版社/メーカー: 集英社
- メディア: セット買い
2050年のメディア [読書日記]
読売新聞、日経新聞、ヤフーを中心にインターネット時代のメディア業界の地殻変動を描いている。慶應SFCの講座から生まれた。メディア業界に関わる人たちには必読の一冊だろう。
紙の新聞か、デジタルか。技術革新か、スクープか。業界の人間にとっては、この20年ほど常にこの言葉が頭のどこかにあり、自らの拠って立つ地盤、会社は大丈夫なのか、転身すべき時なのではないかと自問自答する人も多かったのではないかと思う。ソフトバンクの孫正義がiPhoneの販売権を得て、国内で売り出したのは2008年6月。10年には4Gが実現し、世間にはあっという間にスマホが普及した。それから12年、スマホでニュースを知る時代が到来するとともに新聞の部数は激減してきたのだ。
今年になってスポーツ紙が相次ぎ休刊、デジタル媒体に切り替わるとの発表があった。次はいつ夕刊がなくなるか。最新のニュースがスマホで見れる環境では、すでに夕刊の存在意義は薄れている。惰性で発行しているのは、広告売上高を減らしたくないという、つまらない新聞社内の事情だけだ。とはいえ、新聞社はジャーナリズムの担い手として生き続けてほしい。米国のように地方新聞がなくなった街を想像してほしい。行政権力に対してものが言えない社会。誰も批判する者がなくなると、必ず権力は腐敗する。ロシアや中国、北朝鮮。官製メディアだけの言論社会は想像するだけで寒気がする。
紙の新聞か、デジタルか。技術革新か、スクープか。業界の人間にとっては、この20年ほど常にこの言葉が頭のどこかにあり、自らの拠って立つ地盤、会社は大丈夫なのか、転身すべき時なのではないかと自問自答する人も多かったのではないかと思う。ソフトバンクの孫正義がiPhoneの販売権を得て、国内で売り出したのは2008年6月。10年には4Gが実現し、世間にはあっという間にスマホが普及した。それから12年、スマホでニュースを知る時代が到来するとともに新聞の部数は激減してきたのだ。
今年になってスポーツ紙が相次ぎ休刊、デジタル媒体に切り替わるとの発表があった。次はいつ夕刊がなくなるか。最新のニュースがスマホで見れる環境では、すでに夕刊の存在意義は薄れている。惰性で発行しているのは、広告売上高を減らしたくないという、つまらない新聞社内の事情だけだ。とはいえ、新聞社はジャーナリズムの担い手として生き続けてほしい。米国のように地方新聞がなくなった街を想像してほしい。行政権力に対してものが言えない社会。誰も批判する者がなくなると、必ず権力は腐敗する。ロシアや中国、北朝鮮。官製メディアだけの言論社会は想像するだけで寒気がする。
百花 [シネマ&演劇]
川村元気が原作、脚本、監督の「百花」を見た。認知症で記憶を失っていく母と息子の物語。人の忘却、忘れるということについて考えを巡らす。AI、人工知能があらゆることを記録してくれる時代だからこそ、人間ならではの記憶の特殊性、感情が介入する思い出の大切さを思う。
認知症の母が覚えている景色、息子が忘れていた思い出。キーワードは、母親がもう一度見たいと息子にせがむ「半分の花火」。半分の花火って、どんなんやろか? スクリーンで見て、半分の花火の景色を見て(ここで一気に伏線を回収)、「なるほど」と頷き、ついほろりとした。
原田美枝子、菅田将暉、長澤まさみ、永瀬正敏という主要キャスト。年を感じさせない原田の色気に感心する場面もあった。永瀬は「オリバーな犬」でも久しぶりに見たが、自分としては随分久しぶり。年をとってなかなか渋くなった。
認知症の母が覚えている景色、息子が忘れていた思い出。キーワードは、母親がもう一度見たいと息子にせがむ「半分の花火」。半分の花火って、どんなんやろか? スクリーンで見て、半分の花火の景色を見て(ここで一気に伏線を回収)、「なるほど」と頷き、ついほろりとした。
原田美枝子、菅田将暉、長澤まさみ、永瀬正敏という主要キャスト。年を感じさせない原田の色気に感心する場面もあった。永瀬は「オリバーな犬」でも久しぶりに見たが、自分としては随分久しぶり。年をとってなかなか渋くなった。
失われた時を求めて〜スワン家の方へ [読書日記]
マルセル・プルーストの大長編傑作に挑む。以前、1冊目の途中で挫折。今回は集英社文庫ヘリテージシリーズで全13冊の読破を目指す。集英社版は登場人物の一覧や全7編のあらすじが巻末についていて、完読への手引きがあるのが親切。ざっと頭に入れて第1編「スワン家の方へ」を読み通した。
フランスの貴族、ブルジョアの社交界を舞台に主人公の恋愛や家族、交友関係が細かく描かれる。フランスを中心とした欧州の文学、美術、音楽、演劇など、当時の芸術・流行がさまざまな比喩の中で取り上げられる。フランス語や仏文学についての知識がないと、読むのが辛くなるかもしれない。
初読は果たして20代だったか、30代だったか。日仏学館でフランス語を学び直していた頃だったか。とにかく、その頃に比べれば少しは教養がついたのか、ひっかかりながらも何とかかんとか進んでいる。ファッションや美術関係など日本文化のことがたまに話に出てきて、パリ万博の頃のジャパネスクブームが作品に反映されているのも面白い。


フランスの貴族、ブルジョアの社交界を舞台に主人公の恋愛や家族、交友関係が細かく描かれる。フランスを中心とした欧州の文学、美術、音楽、演劇など、当時の芸術・流行がさまざまな比喩の中で取り上げられる。フランス語や仏文学についての知識がないと、読むのが辛くなるかもしれない。
初読は果たして20代だったか、30代だったか。日仏学館でフランス語を学び直していた頃だったか。とにかく、その頃に比べれば少しは教養がついたのか、ひっかかりながらも何とかかんとか進んでいる。ファッションや美術関係など日本文化のことがたまに話に出てきて、パリ万博の頃のジャパネスクブームが作品に反映されているのも面白い。

失われた時を求めて 1 第一篇 スワン家の方へ 1 (集英社文庫)
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2006/03/17
- メディア: 文庫

失われた時を求めて 2 第一篇 スワン家の方へ 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2006/03/17
- メディア: 文庫
養老先生、病院へ行く [読書日記]
かの養老孟司先生と東大病院の教え子、中川恵一さんの共著。病院嫌いの養老先生が体調が悪くて病院に行き、心筋梗塞と分かって緊急手術で一命を取り留めた話、愛猫まるの死などについて語る。医者であるのに、統計データに基づく現代医療に違和感を持ち、「身体の声を聞く」ことを大切にしてきた養老先生の考えに共感するところが大きかった。
ペットの犬や猫は、今この時のことしか考えていない。将来のことは考えない。今をただ精一杯生きることに全力だ。人間は大脳によって都市化した世界を作り、自然=死を見えないようにして暮らしている。一人称の死(自ら見えない自身の死)、二人称の死(家族や友人などの死、家族同様のペットの死)、三人称の死(テレビなどで見る戦争の犠牲者など)という定義もストンと胸に落ちた。
うちで飼っていたフレンチブルドッグ(あんず)が息をひきとった。台風の朝、眠るように亡くなっていた。14歳という高齢で半年ほど前から病気であるのが分かっていたが、手術を回避し家で家族がケアしながら見守る道を選んだ。次第に立ち上がれなくなり食も細くなったが、痛がるそぶりはなかった。最後に大好きだった散歩にもう一度連れて行ってあげたかったなあ。役に立つとか儲かることばかりが重視される社会で、ただ純粋に飼い主に懐いてくれた存在。本書でも猫ブームは、現代の人間社会の生きづらさの裏返しとの指摘があり、うなづいた。
ペットの犬や猫は、今この時のことしか考えていない。将来のことは考えない。今をただ精一杯生きることに全力だ。人間は大脳によって都市化した世界を作り、自然=死を見えないようにして暮らしている。一人称の死(自ら見えない自身の死)、二人称の死(家族や友人などの死、家族同様のペットの死)、三人称の死(テレビなどで見る戦争の犠牲者など)という定義もストンと胸に落ちた。
うちで飼っていたフレンチブルドッグ(あんず)が息をひきとった。台風の朝、眠るように亡くなっていた。14歳という高齢で半年ほど前から病気であるのが分かっていたが、手術を回避し家で家族がケアしながら見守る道を選んだ。次第に立ち上がれなくなり食も細くなったが、痛がるそぶりはなかった。最後に大好きだった散歩にもう一度連れて行ってあげたかったなあ。役に立つとか儲かることばかりが重視される社会で、ただ純粋に飼い主に懐いてくれた存在。本書でも猫ブームは、現代の人間社会の生きづらさの裏返しとの指摘があり、うなづいた。
コンビニエンス・ストーリー [シネマ&演劇]
久々のシネマ鑑賞は、空いていたコンビニエンスストーリー。世にも奇妙なタッチら
しいとは聞いていたが、生と死の世界が地続きになっているお話で、山の中のコンビ
ニがとても印象的だった。
成田凌と前田敦子、六角精児という主要キャスト。脚本家の主人公が犬の缶詰を買い
に深夜のコンビニに立ち寄り、異世界に迷い込む。怪しい役ははまり役の六角さん、
森の中の演奏会で振るタクトが堂にいっていて、そのシーンが目に焼きついた。
監督・脚本の三木聡は、放送作家としてタモリ倶楽部やトリビアの泉を手がけていた
という。そのセンスは素晴らしい。たまたま観た映画でそんな事実を知る。映画のセ
レンディピティ、気付き、出会いが楽しい。
しいとは聞いていたが、生と死の世界が地続きになっているお話で、山の中のコンビ
ニがとても印象的だった。
成田凌と前田敦子、六角精児という主要キャスト。脚本家の主人公が犬の缶詰を買い
に深夜のコンビニに立ち寄り、異世界に迷い込む。怪しい役ははまり役の六角さん、
森の中の演奏会で振るタクトが堂にいっていて、そのシーンが目に焼きついた。
監督・脚本の三木聡は、放送作家としてタモリ倶楽部やトリビアの泉を手がけていた
という。そのセンスは素晴らしい。たまたま観た映画でそんな事実を知る。映画のセ
レンディピティ、気付き、出会いが楽しい。
土地の文明 [読書日記]
「地形とデータで日本の都市の謎を解く」というサブタイトルがつく。元建設官僚の竹村公太郎さんの著書。全国の都市を俎上に上げ、土地の下部構造に着目、都市の成り立ちを解き明かす。人気番組「ブラタモリ」のタネ本みたいな一冊で滅法面白かった。
皇居の正門は半蔵門という仮説、土地をめぐる徳川の吉良への恨みが背景にあった忠臣蔵の真相、 石狩川のショートカット、権力と権威が分かれた鎌倉幕府など、へえと思う話が続く。荒俣宏は「知力がドンドン湧いてくる本」と評しているが、それも頷ける。
キーワードの一つは交流軸。現代で言えば高速道路のネットワークに重なる都市は栄ることが実証されている。人やモノが集まる場所は繁盛するのだ。京都への遷都による奈良の衰退、交流軸による滋賀の繁栄という現象はあまり知らなかった。大河川がなく地理的に安全でもない福岡市が大繁栄しているのは、世界的な大交流軸の上にあり、昔から大陸に開いていた街だから。漂流して流れ着く一番の港が博多だった。
征夷大将軍の「夷」は、字を分解すると、一と弓と人。手をいっぱい広げて弓を引いている人を意味し、すなわち「狩猟する人」を意味するという。稲作をする人々が土地を求めて狩猟する人たちを追っ払う。農耕民族による狩猟民族の駆逐は、中国だけでなく日本でも行われたという説に感心した。
皇居の正門は半蔵門という仮説、土地をめぐる徳川の吉良への恨みが背景にあった忠臣蔵の真相、 石狩川のショートカット、権力と権威が分かれた鎌倉幕府など、へえと思う話が続く。荒俣宏は「知力がドンドン湧いてくる本」と評しているが、それも頷ける。
キーワードの一つは交流軸。現代で言えば高速道路のネットワークに重なる都市は栄ることが実証されている。人やモノが集まる場所は繁盛するのだ。京都への遷都による奈良の衰退、交流軸による滋賀の繁栄という現象はあまり知らなかった。大河川がなく地理的に安全でもない福岡市が大繁栄しているのは、世界的な大交流軸の上にあり、昔から大陸に開いていた街だから。漂流して流れ着く一番の港が博多だった。
征夷大将軍の「夷」は、字を分解すると、一と弓と人。手をいっぱい広げて弓を引いている人を意味し、すなわち「狩猟する人」を意味するという。稲作をする人々が土地を求めて狩猟する人たちを追っ払う。農耕民族による狩猟民族の駆逐は、中国だけでなく日本でも行われたという説に感心した。
人生、成り行き 談志一代記 [読書日記]
「人生、成り行き」ってえ、タイトルが気に入って手に取った一冊。噺家の談志の野郎、いったいどんなこと喋りやがったのか。立川流顧問の吉川潮さんのインタビューで小説新潮に連載したのをまとめたらしいが、これが滅法面白かったね。野暮なのはダメ、江戸っ子は粋でなくちゃ。基本の行動原理はこれと、芸人だからシャレが分からない奴は莫迦 ってえの。鬱陶しい世の中故に、読んでスカッとしたね。
噺家として国政選挙に打って出たんだなあ、忘れてたけど。先輩議員の青島幸男、こいつも江戸っ子なんだが、これが野暮でいけねえ。選挙運動しないで家にいるというのは一般的には格好いいかもしれないが、あたしに言わせれば野暮。おれなら毎日女とデートするとか、トルコ風呂に通うとか、そういうやり方の方が粋。別に反社会的行為ではないしね。
談志落語の自己分析。いい好奇心を文明と呼び、悪い好奇心を犯罪と呼ぶ。いいも悪いも人間の業じゃねえか、しょうがないじゃないかと肯定していくれるのが、悪所と言われる寄席なんだ。芸術は成り上がり者のステイタス、自分をモーツァルトやルノアールに帰属させて満足を得る。人は自分を安定させるためにいろんなところに帰属する。一番帰属して楽なのが、頭を使わなくて良い宗教でありイデオロギーかな。俺が帰属するのは結局、落語しかないけど。
立川流の設立の経緯も初めて知った。談志の話は芝浜を一度聴いたきり。それも映画で。志の輔、志らく、談春らの落語もいつか聞いてみたい。
噺家として国政選挙に打って出たんだなあ、忘れてたけど。先輩議員の青島幸男、こいつも江戸っ子なんだが、これが野暮でいけねえ。選挙運動しないで家にいるというのは一般的には格好いいかもしれないが、あたしに言わせれば野暮。おれなら毎日女とデートするとか、トルコ風呂に通うとか、そういうやり方の方が粋。別に反社会的行為ではないしね。
談志落語の自己分析。いい好奇心を文明と呼び、悪い好奇心を犯罪と呼ぶ。いいも悪いも人間の業じゃねえか、しょうがないじゃないかと肯定していくれるのが、悪所と言われる寄席なんだ。芸術は成り上がり者のステイタス、自分をモーツァルトやルノアールに帰属させて満足を得る。人は自分を安定させるためにいろんなところに帰属する。一番帰属して楽なのが、頭を使わなくて良い宗教でありイデオロギーかな。俺が帰属するのは結局、落語しかないけど。
立川流の設立の経緯も初めて知った。談志の話は芝浜を一度聴いたきり。それも映画で。志の輔、志らく、談春らの落語もいつか聞いてみたい。
シン・ウルトラマン [シネマ&演劇]
庵野秀明が総監修の「シン・ウルトラマン」を見てきた。シン・ゴジラに続く「シン」シリーズ。新だけではなく、真であり、深であり、神でもある「シン」なのか。昭和のウルトラマンとは一味違うオトナの味付けをしたウルトラマンだった。
怪獣は「禍威獣」とされ外星人が持ち込んだ生物兵器とされる。ウルトラマンの故郷、光の星もい含め地球外の進化した生命体が地球=人類を我がものにしようと企んでいる中で、掟を破り人類と融合したウルトラマンが人類を守るため奮闘する。
デジタル技術の進歩で特撮映画と思えぬリアルな映像。巨大化した長澤まさみにはびっくりしたけれど(映画を見た、ららポート福岡のガンダム像を見た後だったので)。結局、人類そのものが究極の生物兵器であり、地球の脅威であるというオチがついている。自らの都合で環境を破壊し続ける地球人への痛烈なメッセージであるのは言うまでもないだろう。
怪獣は「禍威獣」とされ外星人が持ち込んだ生物兵器とされる。ウルトラマンの故郷、光の星もい含め地球外の進化した生命体が地球=人類を我がものにしようと企んでいる中で、掟を破り人類と融合したウルトラマンが人類を守るため奮闘する。
デジタル技術の進歩で特撮映画と思えぬリアルな映像。巨大化した長澤まさみにはびっくりしたけれど(映画を見た、ららポート福岡のガンダム像を見た後だったので)。結局、人類そのものが究極の生物兵器であり、地球の脅威であるというオチがついている。自らの都合で環境を破壊し続ける地球人への痛烈なメッセージであるのは言うまでもないだろう。

エロ事師たち [読書日記]
野坂昭如の「エロ事師たち」を読了した。AVもネットもなかった昭和時代の「エロ稼業」に精を出した男たちの話。エロ写真、ブルーフィルムにトルコ風呂。懐かしい用語に昔を思い出す。
関西が舞台で主人公のすぶやんが全編大阪弁で語る。企業が営業の一環で顧客をもてなすためエロ映画の映写会をしたり、売春の斡旋をしたり。もちろん当時でも違法だが、裏稼業のエロ事師たちが危ない橋を渡りながら顧客の欲望を満たす。客から感謝されることにプロとしての誇りを持って、次第に内容もエスカレートしていく。
戦後の復興から高度成長へと向かおうとする頃。警察に捕まるようなことをしながらも、まだのんびりというか、おおらかというか。今の尺度で言えば、性差別だ、人権侵害だという話にもなるだろう。発表当時としても過激な内容を、お伽噺のような感じで読み終えた。
関西が舞台で主人公のすぶやんが全編大阪弁で語る。企業が営業の一環で顧客をもてなすためエロ映画の映写会をしたり、売春の斡旋をしたり。もちろん当時でも違法だが、裏稼業のエロ事師たちが危ない橋を渡りながら顧客の欲望を満たす。客から感謝されることにプロとしての誇りを持って、次第に内容もエスカレートしていく。
戦後の復興から高度成長へと向かおうとする頃。警察に捕まるようなことをしながらも、まだのんびりというか、おおらかというか。今の尺度で言えば、性差別だ、人権侵害だという話にもなるだろう。発表当時としても過激な内容を、お伽噺のような感じで読み終えた。
杉浦非水展 [アート]
日本のモダンデザインのパイオニア杉浦非水の展覧会を福岡県立美術館で見た。三越やカルピスのポスター、商品パンフレット、さまざまな本の装丁など、いわゆるレトロモダンな図案を面白く眺めた。
戦争の時代にも重なり京城に日本の百貨店が進出したり、南満州鉄道の開通の際のポスターに関わったりしている。浅草から銀座に地下鉄が開通した時の惹句は「東洋で初めての地下鉄開通」。誇らしげな時代の空気を感じる。
デザイン界の巨匠になってからは図案集を出したり、多摩美大の設立などに関わったり、後進の教育に力を注いだようだ。会場の県美は随分久しぶり。周辺の公園はリニューアル工事中だが、確か県美は福岡市美のある大濠に移転する構想があったっけ。天神の繁華街から歩いて行ける美術館は気に入っていたのだが。

戦争の時代にも重なり京城に日本の百貨店が進出したり、南満州鉄道の開通の際のポスターに関わったりしている。浅草から銀座に地下鉄が開通した時の惹句は「東洋で初めての地下鉄開通」。誇らしげな時代の空気を感じる。
デザイン界の巨匠になってからは図案集を出したり、多摩美大の設立などに関わったり、後進の教育に力を注いだようだ。会場の県美は随分久しぶり。周辺の公園はリニューアル工事中だが、確か県美は福岡市美のある大濠に移転する構想があったっけ。天神の繁華街から歩いて行ける美術館は気に入っていたのだが。

なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか [読書日記]
宗教学者・島田裕巳さんの新書。宗教の歴史や聖地巡礼の話に興味があり、これまでも島田さんの本を手に取ってきたが、神社をめぐるこの本も面白かった。八幡、天神、稲荷、伊勢、出雲、春日、熊野、祇園、諏訪、白山、住吉。全国の至る所に同じ名前の神社が点在している不思議の謎が解けた。
それにしても日本は本当に八百万の神の国なのだと思った。神社ごとに違う神を祀っていて、しかも1社に1柱というわけではない。神社の境内に別の系統の神社を勧請して、摂社や末社として小祠がある。古事記、日本書紀に出てくる327柱の神々はほんの一部で、外国から渡来してきたり後世の人が祀られたり、自然神が元だったりする神も多い。もともとは仏教と一体だった時代の方が長く、仏が神と習合して新たな信仰の対象となったケースも多いと知った。
明治以降の廃仏毀釈、国家神道で随分と神社のかたちも変わったらしい。天神さま、菅原道真は祟り神から善なる神へ変貌し寺子屋に額が飾られたことから別に達筆ではないのに書道の神に祭り上げられた。歌舞伎の「菅原伝授手習鑑」が信仰拡大にもたらした影響も大きかった。熊野の話では、補陀落渡海(ほだらくとかい)という衝撃的な習俗を知る。海の向こうの浄土を目指して船出する自殺行為は、井上靖が小説にしているという。久留米の水天宮は、壇ノ浦で滅びた平家の人々を祭神としていることも知った。祠があれば拝んでしまう、これはもう日本人の習性なんだろう。

それにしても日本は本当に八百万の神の国なのだと思った。神社ごとに違う神を祀っていて、しかも1社に1柱というわけではない。神社の境内に別の系統の神社を勧請して、摂社や末社として小祠がある。古事記、日本書紀に出てくる327柱の神々はほんの一部で、外国から渡来してきたり後世の人が祀られたり、自然神が元だったりする神も多い。もともとは仏教と一体だった時代の方が長く、仏が神と習合して新たな信仰の対象となったケースも多いと知った。
明治以降の廃仏毀釈、国家神道で随分と神社のかたちも変わったらしい。天神さま、菅原道真は祟り神から善なる神へ変貌し寺子屋に額が飾られたことから別に達筆ではないのに書道の神に祭り上げられた。歌舞伎の「菅原伝授手習鑑」が信仰拡大にもたらした影響も大きかった。熊野の話では、補陀落渡海(ほだらくとかい)という衝撃的な習俗を知る。海の向こうの浄土を目指して船出する自殺行為は、井上靖が小説にしているという。久留米の水天宮は、壇ノ浦で滅びた平家の人々を祭神としていることも知った。祠があれば拝んでしまう、これはもう日本人の習性なんだろう。

なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか 最強11神社―八幡・天神・稲荷・伊勢・出雲・春日・熊野・祗園・諏訪・白山・住吉の信仰系統 (幻冬舎新書)
- 作者: 島田 裕巳
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2013/11/29
- メディア: 新書
会社卒業 [雑感]
同期がまた一人、会社を去った。定年後再雇用で65歳。大学浪人なので自分より1年度早く、生まれ月の4月30日をもって会社を卒業した。先月には同期の一人が突然逝った。気持ちは若いのだが、こういう年頃なのかなあと、少し切ない気分になる。
大学のサークルの同期はまだ現役だが、来年には皆65歳を迎え多くはリタイアするようだ。自分はとりあえず年金がフルにもらえる年齢までと思う。会社を辞めた後は「お金に働いてもらう」と言う奴もいる。急に通勤がなくなる、外に行くことがなくなる生活はやはり手持ち無沙汰だろうなあ。バイトなのか、ボランティアなのか、自治会活動なのか、最近たまに卒業後の生活を考える。
家のことももちろんやらねば(やってくださいねと妻から言われている)と決意している。生活のリズムを作ることが大事だと思ったりする。パラサイトシングルを抱え、わずかな蓄えを削りながら暮らしていくのかな、なんて考えると何か下を向きたくなる。やはり目標を持たないとね、そう自分に言い聞かせながら酒を飲む連休の一日。
大学のサークルの同期はまだ現役だが、来年には皆65歳を迎え多くはリタイアするようだ。自分はとりあえず年金がフルにもらえる年齢までと思う。会社を辞めた後は「お金に働いてもらう」と言う奴もいる。急に通勤がなくなる、外に行くことがなくなる生活はやはり手持ち無沙汰だろうなあ。バイトなのか、ボランティアなのか、自治会活動なのか、最近たまに卒業後の生活を考える。
家のことももちろんやらねば(やってくださいねと妻から言われている)と決意している。生活のリズムを作ることが大事だと思ったりする。パラサイトシングルを抱え、わずかな蓄えを削りながら暮らしていくのかな、なんて考えると何か下を向きたくなる。やはり目標を持たないとね、そう自分に言い聞かせながら酒を飲む連休の一日。
世界まちかど地政学 [読書日記]
藻谷浩介さんがネットに連載していた世界弾丸ツアー記。コロナで国内外どこにも遠出できない日々が続く中、読書で海外に行った気分になる。ドイツの北方領土カリーニングラード、アイルランド、コーカサス3国、スリランカ、ミャンマー、ボリビアなど。沢木耕太郎や小田実の旅行記に心躍らせた昔をふと想い出しながら、現場に行かなければ分からない事実があることを改めて思う。
藻谷さんの主催する東日本大震災支援ツアーにかつて参加したことがあるが、彼の歴史と地理の知識に基づいた講釈は実に面白かった。このツアー記も観光地巡りではなく、公共交通機関を使い足でとにかく歩き回る。それぞれの土地には、政府が外国人に見せたがる「グラマラス」な場所と、その対極にある庶民の生活する場所があると、劇作家・山﨑正和さんは言う。そのポリシーで行った先の国の街を探検するという。
地政学はドイツで発達した学問であることから国家間の戦争を論じるイメージがある。本書では、歴史認識と21世紀の現場で起きていることを観察することを踏まえた地政学として論じている。ハードパワーだけでなくソフトパワーに重きを置く地政学。海外を歩き回るのはなかなかできそうにないが、国内を歩いて観察する旅をいつかやりたいと思った。
藻谷さんの主催する東日本大震災支援ツアーにかつて参加したことがあるが、彼の歴史と地理の知識に基づいた講釈は実に面白かった。このツアー記も観光地巡りではなく、公共交通機関を使い足でとにかく歩き回る。それぞれの土地には、政府が外国人に見せたがる「グラマラス」な場所と、その対極にある庶民の生活する場所があると、劇作家・山﨑正和さんは言う。そのポリシーで行った先の国の街を探検するという。
地政学はドイツで発達した学問であることから国家間の戦争を論じるイメージがある。本書では、歴史認識と21世紀の現場で起きていることを観察することを踏まえた地政学として論じている。ハードパワーだけでなくソフトパワーに重きを置く地政学。海外を歩き回るのはなかなかできそうにないが、国内を歩いて観察する旅をいつかやりたいと思った。
ひまわり [シネマ&演劇]
ウクライナを舞台にした「ひまわり」を見る。ロシアのウクライナ侵攻を機に全国で上映会があっているが、アマゾンプライムなら100円。確か子供の頃にテレビの洋画劇場で見たような気がしていたが、すっかり忘れていた。ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニ主演、アントニオ・デシーカ監督作。
第2次世界大戦でロシア戦線に送り込まれた男。極寒の地で凍死寸前を地元の娘に助けられそのまま一緒に暮らす。残された妻は生死も分からぬままただ男の帰りを待ち続ける。スターリンが死去し時代が変わって、妻は意を決してロシアに夫探しの旅へ。そこで辿り着いたのは、見知らぬ女と家庭を築いた夫だった。
映画ではウクライナはソ連の一地方として描かれる。ロシアと思っていたものがウクライナの文化だったりすることを今回の戦争で知った。ウクライナは小麦やひまわり油(日本ではチョコレート製造に欠かせないらしい)の一大産地であることも知った。どこまでも続くひまわり畑に切ないメロディーが流れる。多くの兵士たちを埋葬した十字架が映し出され、麦畑やひまわり畑の下にはロシア人やイタリア人が眠っているという。死に別れ、生き別れ。愛する人との間を引き裂く戦争の残酷さは昔から変わらない。
第2次世界大戦でロシア戦線に送り込まれた男。極寒の地で凍死寸前を地元の娘に助けられそのまま一緒に暮らす。残された妻は生死も分からぬままただ男の帰りを待ち続ける。スターリンが死去し時代が変わって、妻は意を決してロシアに夫探しの旅へ。そこで辿り着いたのは、見知らぬ女と家庭を築いた夫だった。
映画ではウクライナはソ連の一地方として描かれる。ロシアと思っていたものがウクライナの文化だったりすることを今回の戦争で知った。ウクライナは小麦やひまわり油(日本ではチョコレート製造に欠かせないらしい)の一大産地であることも知った。どこまでも続くひまわり畑に切ないメロディーが流れる。多くの兵士たちを埋葬した十字架が映し出され、麦畑やひまわり畑の下にはロシア人やイタリア人が眠っているという。死に別れ、生き別れ。愛する人との間を引き裂く戦争の残酷さは昔から変わらない。
パンとサーカス [読書日記]
島田雅彦さんの新刊「パンとサーカス」を読む。西日本、東京・中日、北海道新聞に連載した小説。暗愚の安倍から菅政権の頃、閉塞感に覆われた国を舞台にしたインテリジェンスサスペンス仕立てのエンタメ政治小説だ。コントラムンディ、ラテン語で「世界の敵」をキーワードにテロと革命の夢が疾駆する。
どこまで本当か分からないが、CIAやKGBの活動はよく小説・映画で知っている。でも中国国家公安部の暗躍はあまり意識したことがなかった。今や軍事や経済で米国を凌駕しようとする中国。ITはじめ産業スパイを主とした工作員は日本中にウヨウヨいるのだろう。
戦後、米国の軍隊が駐留し実質的には属領のような国になった。政治的主体性はなくいつも米国の顔色を見ている。以前読んだ白井聡の「国体論」の論旨をストーリー仕立てにしたのが、島田さんのこの物語だと思った。
・「善きサマリア人法」とは、急病人などを救おうと善意の医療行為をとった場合、失敗してもその責任は問われないというもの(日本では適用されにくい)。
・ユロージヴァヤとは、ロシア語で「聖なる愚者」。
・奇跡を待望する人は多いし、愚か者もうんざりするほど多くいるが、奇跡を起こそうとする愚か者はほとんどいない。ゆえに奇跡は永遠に起きない。
どこまで本当か分からないが、CIAやKGBの活動はよく小説・映画で知っている。でも中国国家公安部の暗躍はあまり意識したことがなかった。今や軍事や経済で米国を凌駕しようとする中国。ITはじめ産業スパイを主とした工作員は日本中にウヨウヨいるのだろう。
戦後、米国の軍隊が駐留し実質的には属領のような国になった。政治的主体性はなくいつも米国の顔色を見ている。以前読んだ白井聡の「国体論」の論旨をストーリー仕立てにしたのが、島田さんのこの物語だと思った。
・「善きサマリア人法」とは、急病人などを救おうと善意の医療行為をとった場合、失敗してもその責任は問われないというもの(日本では適用されにくい)。
・ユロージヴァヤとは、ロシア語で「聖なる愚者」。
・奇跡を待望する人は多いし、愚か者もうんざりするほど多くいるが、奇跡を起こそうとする愚か者はほとんどいない。ゆえに奇跡は永遠に起きない。
文明の生態史観 [読書日記]
梅棹忠夫の名著、文明の生態史観を読む。生誕100年の帯がついた中公文庫。ユーラシア大陸を第一地域と第二地域に分けて、生態学の視点から国の発展のあり方を分類してみせた。温帯の日本と西ヨーロッパの類似性を指摘する論考は、昭和30年代に書かれたとは思えない。まだ自由に海外旅行など行けなかった時代ゆえに大きな反響を巻き起こしたのも頷ける。
世界の4大文明が生まれたのはいずれも乾燥地帯の周辺。大国が生まれてはそれまでの国を破壊するパターンを繰り返し、社会が安定することはなかった。文明国の辺境にあった日本と西ヨーロッパは大国に侵略されることなく、封建制を経てブルジョアを育成し、植民地を持つ列強となり、民主主義の国になった。歴史学者トインビーの名前を久しぶりに見て、そう言えば昔流行ったなあと感慨に浸った。
確かにと思ったのは、日本がアジアの一員でありながら東南アジアの国々とは全く異質な国であるということ。それは芸術、美的感覚にも現れていて、古い美術品や仏像、建築に価値を見出すのは日本特有で東南アジアにはないという。仏像は古くなれば綺麗に塗り直したりしていつもピカピカ。絵を家の中に飾るという習慣もあまりない。宗教についても生活の中に根付いているアジアの国々と、日本は全く違う。いい悪いではなく、アジアにおける日本の異質性がよく分かった。
世界の4大文明が生まれたのはいずれも乾燥地帯の周辺。大国が生まれてはそれまでの国を破壊するパターンを繰り返し、社会が安定することはなかった。文明国の辺境にあった日本と西ヨーロッパは大国に侵略されることなく、封建制を経てブルジョアを育成し、植民地を持つ列強となり、民主主義の国になった。歴史学者トインビーの名前を久しぶりに見て、そう言えば昔流行ったなあと感慨に浸った。
確かにと思ったのは、日本がアジアの一員でありながら東南アジアの国々とは全く異質な国であるということ。それは芸術、美的感覚にも現れていて、古い美術品や仏像、建築に価値を見出すのは日本特有で東南アジアにはないという。仏像は古くなれば綺麗に塗り直したりしていつもピカピカ。絵を家の中に飾るという習慣もあまりない。宗教についても生活の中に根付いているアジアの国々と、日本は全く違う。いい悪いではなく、アジアにおける日本の異質性がよく分かった。
西鉄サイクルトレイン [雑感]
3月から本格運行を始めた西鉄大牟田線のサイクルトレインを使って休日サイクリングに行った。事前にネット予約して自転車持ち込み料300円をカード払い。最寄りの二日市駅発8:47発の特急に乗る。改札口ではスマホでQRコードを読み取り駅員さんがチェック、自転車の固定バンドをもらう。自分の乗車料金は定期でOK。ホームへはエレベーターで昇り降り、指定の乗車位置で待つ。まもなく特急が到着、乗降ドア横の手すりに自転車を立てかけバンドで固定し久留米まで。同じ列車にはもう一人サイクリストが乗っていたが、土曜の朝早いこともあり空いていた。


久留米駅で固定バンドを返し、乗車の時と同様にQRコードでチェック、改札口を出る。まず以前から気になっていた久留米成田山へ。車窓からいつも見える母子観音像、駅から3号線を30分ほど走ると、住宅街の向こうに巨大な立像が出現した。奇観である。千葉の成田山の分院になるらしいが、こういうものを建立して衆生を集めるのが昔からの戦略なのだろうと納得する。ハンドルをとって返し筑後川河川敷へ。大牟田線の鉄道橋あたりから上流へ遡る。この筑後川サイクリング道路は一番のお気に入り。今の季節は菜の花などが咲き、堤防道路沿いには桜並木もあって、実に気持ちいい。ツバメやサギなどさまざまな鳥が巣を作っているらしく、囀りと風の音だけを聞きながらペダルを漕いだ。ゴープロでも買ってサイクリング動画を撮るのも一興かなと思ったりする。


のんびり2時間程で目的地の原鶴温泉へ到着。道の駅で昼飯におにぎりと桜餅を買う。そばに力士の銅像がある。第15代横綱の梅ヶ谷藤太郎。明治に活躍した地元のヒーローだという。自宅までは3時間ほどかかって少々バテたが、春の1日、サイクルトレインのおかげで少し足を伸ばせたツーリング体験だった。


久留米駅で固定バンドを返し、乗車の時と同様にQRコードでチェック、改札口を出る。まず以前から気になっていた久留米成田山へ。車窓からいつも見える母子観音像、駅から3号線を30分ほど走ると、住宅街の向こうに巨大な立像が出現した。奇観である。千葉の成田山の分院になるらしいが、こういうものを建立して衆生を集めるのが昔からの戦略なのだろうと納得する。ハンドルをとって返し筑後川河川敷へ。大牟田線の鉄道橋あたりから上流へ遡る。この筑後川サイクリング道路は一番のお気に入り。今の季節は菜の花などが咲き、堤防道路沿いには桜並木もあって、実に気持ちいい。ツバメやサギなどさまざまな鳥が巣を作っているらしく、囀りと風の音だけを聞きながらペダルを漕いだ。ゴープロでも買ってサイクリング動画を撮るのも一興かなと思ったりする。


のんびり2時間程で目的地の原鶴温泉へ到着。道の駅で昼飯におにぎりと桜餅を買う。そばに力士の銅像がある。第15代横綱の梅ヶ谷藤太郎。明治に活躍した地元のヒーローだという。自宅までは3時間ほどかかって少々バテたが、春の1日、サイクルトレインのおかげで少し足を伸ばせたツーリング体験だった。

前の20件 | -