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日本の一文 30選 [読書日記]

岩波新書「日本の一文 30選」(中村明著)を読む。夏目漱石から村上春樹まで文壇の著名作家の文章を取り上げ、その表現テクニックを探る。自ら作家に取材した話も多く「へえ」と驚くエピソードもあった。古今の作家の読書案内としても読めた。


作家ではないが、小津安二郎監督作品「東京物語」のセリフも取り上げてある。妻を失った主人公が遠い海を眺めながら「一人になると急に日が永ごうなりますわい」と漏らすシーン。現代人が失った寡黙の感情表現を表す例として挙げる。


初めに読者をおやっと思わせる奇先法、最後にクライマックスを導く漸層法などレトリックの解説や、短編に同じ言葉が出てくるのは興醒めとして同語の繰り返しを避ける文章上のオシャレ=美意識がかつてはあったことに、作家のプロ意識を感じる。川端康成「雪国」の有名な冒頭「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」は、「こっきょう」ではなく「くにざかい」と読むという説。書いた作家は朗読のことは考えずに書いているらしく、日本語ならではの曖昧さも日本文学の魅力の一つになっていると思う。


日本の一文 30選 (岩波新書)

日本の一文 30選 (岩波新書)

  • 作者: 中村 明
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2016/09/22
  • メディア: 新書

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