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日本の一文 30選 [読書日記]

岩波新書「日本の一文 30選」(中村明著)を読む。夏目漱石から村上春樹まで文壇の著名作家の文章を取り上げ、その表現テクニックを探る。自ら作家に取材した話も多く「へえ」と驚くエピソードもあった。古今の作家の読書案内としても読めた。


作家ではないが、小津安二郎監督作品「東京物語」のセリフも取り上げてある。妻を失った主人公が遠い海を眺めながら「一人になると急に日が永ごうなりますわい」と漏らすシーン。現代人が失った寡黙の感情表現を表す例として挙げる。


初めに読者をおやっと思わせる奇先法、最後にクライマックスを導く漸層法などレトリックの解説や、短編に同じ言葉が出てくるのは興醒めとして同語の繰り返しを避ける文章上のオシャレ=美意識がかつてはあったことに、作家のプロ意識を感じる。川端康成「雪国」の有名な冒頭「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」は、「こっきょう」ではなく「くにざかい」と読むという説。書いた作家は朗読のことは考えずに書いているらしく、日本語ならではの曖昧さも日本文学の魅力の一つになっていると思う。


日本の一文 30選 (岩波新書)

日本の一文 30選 (岩波新書)

  • 作者: 中村 明
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2016/09/22
  • メディア: 新書

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会田誠が考える新しい美術の教科書 [読書日記]

かつて愛読していた芸術新潮が2月号で「会田誠が考える新しい美術の教科書」という特集をやっていた。会田誠はかつて六本木・森美術館で結構ショックな回顧展を見て、高価なカタログを買おうかどうか迷った思い出がある。そんなわけで久々に芸術新潮を買う。


中学2年生に教える感じでやさしくアート(主に現代美術)の現状を解説する。美術に政治を持ち込もう、美術から性のいろいろを学ぼう、美術でバカ[黒ハート]?万歳など、文科省検定の教科書では触れない部分を大胆に紹介する内容。もちろん中学生は建前なので、大人向けで面白く読めた。美術は美術館の外へ出ていき、便器の展示で有名なマルセル・デュシャンが現代美術(前衛)の起源となったことなど基礎知識を学べた。


ドイツのカッセルという田舎町で開かれる「ドクメンタ」という大規模美術展が20世紀後半の美術の一側面を代表する重要イベントになった。「ZINE」という個人や少人数の有志が非営利で発行する自主的な出版物が広がっていて、自分の個人的な思いや考え、主張を自由な形式で反映した小冊子が都内の書店でも一角を占めているという。歴史と新たな動きを知り、アートの今を探訪してみたくなった。


芸術新潮 2024年2月号

芸術新潮 2024年2月号

  • 作者: 芸術新潮編集部
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2024/01/25
  • メディア: 雑誌



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ハムレット [読書日記]

シェークスピアの「ハムレット」を読む。AmazonのKindleで角川文庫の新訳版で問題の有名な独白は、最も人口に膾炙している「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」を採用している。

2003年世田谷パブリックシアターなどで公演された野村萬斎主演のハムレット用に新たに河合詳一郎さんが訳した。舞台でセリフ回しがリズミカルに行くように野村萬斎が手を入れて台本が完成したという。確かに日本語がこなれていて、舞台の情景が頭によく浮かんだ。
演出はジョナサン・ケント、野村萬斎がハムレット王子で吉田鋼太郎が敵役の叔父クローディアス国王。絵画で題材になってきたオフィーリアの身投げの経緯も初めて知った。久しぶりに古典に触れた。
新訳 ハムレット (角川文庫)

新訳 ハムレット (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2012/10/01
  • メディア: Kindle版

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芝居の面白さ、教えます 井上ひさしの戯曲講座<海外編> [読書日記]

井上ひさしさんの戯曲講座、面白かったので「海外編」も読む。最初に取り上げたのは、かの有名なシェイクスピア。例によって様々な方向へ脱線しながら蘊蓄を存分に語る。読めば、「いや、演劇は素晴らしい」と思う。


シェイクスピアの生没年は、ヒトゴロシ(1564)イロイロ(1616)と覚える。ただ、ウィリアム・シェイクスピアという人物が本当にいたのかどうか、実はわからないのだとか。古来、フランシス・ベーコン、クリストファー・マーロウなど別人説がいくつも語られてきたという。作品はいくつかのプロットが同時に進行し、最後には全てが見事に解決する。井上さんは「ハムレット」とチェーホフの「三人姉妹」を挙げて、世界演劇史の奇跡としている。


To be,or not to be,that is the question.ハムレットの有名な独白は何と訳すべきか。坪内逍遥以来、福田恒存、小田島雄志ら多くは「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」としているが、井上さんは前後の文脈から「成り行きに任せるか、それとも自分で動き出すか、それが問題だ」と訳すのが正解ではないかと言っている。ハムレット、ちゃんと読んでみよう。


芝居の面白さ、教えます 海外編

芝居の面白さ、教えます 海外編

  • 作者: 井上 ひさし
  • 出版社/メーカー: 作品社
  • 発売日: 2023/07/19
  • メディア: 単行本

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友達 [読書日記]

安部公房の戯曲「友達」を読む。男の部屋にいきなり押しかけてきた9人の家族が、善意に満ちた笑顔で隣人愛を説き男を翻弄する。谷崎潤一郎賞受賞の作品。


「一人でいたい」という男に「人は一人で生きていけないんだよ」と、お節介な心配をする押しかけ家族。最初は抗っていた男は次第に「世間」という同調圧力に飲み込まれていく。作品が執筆された頃は、同調圧力という言葉は一般的ではなかったろうが、他者との関係をテーマにそういった現代の不安を描いたのは間違いない。「逆らいさえしなければ、私たちはただの世間にしかすぎなかったのに」。ドス黒い笑いで幕が下りる。


戯曲を読む経験はあまりしたことはなかったが、安部公房の戯曲は小説っぽいところがあり、すんなり頭に入ってきた(井上ひさしはこの安部作品について戯曲としては不満と書いていたが)。この何年か、結構、演劇を見てきたので、ト書きから舞台を想像できた。


友達・棒になった男 (新潮文庫)

友達・棒になった男 (新潮文庫)

  • 作者: 公房, 安部
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1987/08/28
  • メディア: 文庫

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人工知能の見る夢は [読書日記]

「人工知能の見る夢は」と題したAIショートショート集を読む。人工知能学会の学会誌に掲載されたSF作家のショートショートをテーマ別にまとめ、それに専門家が解説を付けている。知能、心、人間とコンピュータの違いなどについて、SFは古くから思考実験を行なってきた。対話システム、自動運転、環境にある知能、ゲームなどでAIが現実社会に影響を与えつつある時代。SF作品に書かれたことがSFではなくなりつつある世界を改めて実感する。


一部導入されている自動運転は、経済の活性化と高齢社会の課題解決に大きな期待がかかる。チャットGPTは事務処理や創作補助に可能性が見出されている。著作権や倫理面での課題は多々あるものの、AIなしの未来はもはや想像できないところまで来ている。よく出来たショートショートを読みながら、そんなことを考える。


ショートショート集が文春文庫になったのは2017年。すでに7年近く経っていて、秒進分歩のデジタル社会ではAI専門家の解説文もかなり時代遅れになっているのかも(門外漢の自分には目新しい話ばかりだったが)。とはいえAIの入門には楽しい一冊だと思う。


人工知能の見る夢は AIショートショート集 (文春文庫)

人工知能の見る夢は AIショートショート集 (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/08/04
  • メディア: Kindle版
AIが書いたAIについての本

AIが書いたAIについての本

  • 出版社/メーカー: フローラル出版
  • 発売日: 2023/03/20
  • メディア: 単行本
生成AIは電気羊の夢を見るか?

生成AIは電気羊の夢を見るか?

  • 作者: 増田 悦佐
  • 出版社/メーカー: ビジネス社
  • 発売日: 2023/09/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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夜のアルバム [ミュージック]

八代亜紀の訃報に接し、ジャズナンバーを集めたCD「夜のアルバム」を聴く。「舟唄」に代表される演歌もいいが、下積みのクラブ時代に歌ったジャズがいい。ハスキーな声に味がある。


猫のような目をした女性、絵心のあるアーティスト、かわいい女というイメージがある。元気であれば、福岡・中洲のジャズフェスで、その歌声を聞けたかもしれなかった。膠原病での急死は本当にショックだった。


フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーンから虹の彼方まで12曲。アルバムがリリースされたのは2012年、東日本大震災の翌年だ。仕事で上京し銀座のバーでかかっていたのがこのアルバムだったっけ。彼女の冥福を祈り一人、歌声に耳を傾けた。


夜のアルバム(SHM-CD)

夜のアルバム(SHM-CD)

  • アーティスト: 八代亜紀
  • 出版社/メーカー: Universal Music
  • 発売日: 2012/10/10
  • メディア: CD
夜のつづき

夜のつづき

  • アーティスト: 八代亜紀
  • 出版社/メーカー: Universal Music =music=
  • 発売日: 2017/10/11
  • メディア: CD
哀歌-aiuta-

哀歌-aiuta-

  • アーティスト: 八代亜紀
  • 出版社/メーカー: 日本コロムビア
  • 発売日: 2015/10/28
  • メディア: CD

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お気に入りのトランクス [雑感]

最近凝っているのは下着、特にパンツである。大人になってからはブリーフではなく、もっぱらトランクス派なのだが、最近は履き心地のよいトランクスが随分と出ている。

歳をとってくると、キレが悪くなるし、おじん臭いのはやはり気になる。髪はアメリカンになっても若々しくいたい。シニアになるほど身だしなみを気にしてカッコよくなければならないと思っている。

その一つがやはりアンダーウエアだろう。ネットなどで話題になっていて試しに買ってみたのがワコールのトランクス「ブロス」というシリーズだ。とにかく肌触りがいい、履き心地がいい。さらっとしていて蒸れない。消臭効果もあるのかな。ちょっといい値だが(イオンに売ってる)、はく価値はあると思う。家族には「娘はユニクロで、父はワコールかい」と嫌味を言われたが、一歩外に出れば何があるか分からん世の中(ときめくこともある?)だから、アンダーウエアはきちんとしたいね。


[ブロス バイ ワコールメン] ニットトランクス 前開き GT7070 メンズ GY LL

[ブロス バイ ワコールメン] ニットトランクス 前開き GT7070 メンズ GY LL

  • 出版社/メーカー: WACOAL(ワコール)
  • 発売日: 2020/03/09
  • メディア: ウェア&シューズ

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山の人生 [読書日記]

遠野物語と対をなすといわれる柳田国男の「山の人生」を読了。神隠しや天狗、山姥など怪異談として伝承されている話の起源を探り、そこに日本列島の先住民の姿を見出す。大正時代に書かれた著作だが、すでにその頃には忘れられた物語になりつつあった数々のエピソードを各地の資料や聞き取りによって掘り起こしている。山人(やまびと)と呼ばれる人たちがいたことなど思いもしなかったが、昔話にもそうした痕跡があることに驚いた。

我々の先祖たちは、怜悧で空想力豊かな子どもが時々変になって、凡人の知らぬ世界を覗いてきてくれることを望んでいた。たくさんの神隠しの不可思議を信じようとしていた。女性が忽然と姿を消したのは、山人が嫁として攫っていったケースも多かったのではないかと推測も。以前聞いたことのある「サトリ」という怪物(人の腹で思うことをすぐ覚って、逃げようと思っているななどと言い当てる)が山中にいる話も出てきて、いろんな事実の断片が様々な言い伝え、民話、迷信などとして残っているのを知った。

山で生活していた先住民がいなくなったのは、同化政策や百姓社会に併合されたり、人知れず土着したりしたらしい。それでも明治の頃までは山中を漂泊していたらしく、目撃譚も多く残っているという。アジアを中心に多くの血が混じっていると思われる日本人だが、山人の血を濃く受け継ぐ人もきっといるに違いいない。


山の人生 (角川ソフィア文庫)

山の人生 (角川ソフィア文庫)

  • 作者: 柳田 国男
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2013/01/25
  • メディア: 文庫



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探偵マリコの生涯で一番悲惨な日 [シネマ&演劇]

Amazonプライムで久しぶりにシネマ鑑賞する。伊藤沙莉主演の「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」(内田真治、片山慎三監督)。ハードボイルドな新宿、ゴールデン街を舞台に訳ありな過去を持つ連中がマリコのバー(兼探偵事務所)に集う。

それぞれの登場人物ごとにストーリーが語られる展開。ヤクザはともかく、忍者の子孫がいたり、宇宙人が出てきたり、FBIが登場したり、殺し屋姉妹がいたり、結構はちゃめちゃなストーリー。でも何でもありの新宿らしさは出ていたかな。伊藤沙莉の探偵。竹野内豊の忍者役も面白かった。

ゴールデン街のそばの花園神社はテント芝居のメッカ。状況劇場にいた六平直政がテント芝居の役者役で出てきて、唐十郎の話をするご愛嬌があって思わず「いいね」と叫んだ。猥雑なあの街の空気、久々に新宿に行ってみたくなった。


唐十郎の劇世界

唐十郎の劇世界

  • 作者: 扇田 昭彦
  • 出版社/メーカー: 右文書院
  • 発売日: 2007/01/01
  • メディア: 単行本



唐十郎ギャラクシー

唐十郎ギャラクシー

  • 作者: 堀切直人
  • 出版社/メーカー: 青弓社
  • 発売日: 2021/06/18
  • メディア: Kindle版



唐十郎のせりふ: 二〇〇〇年代戯曲をひらく

唐十郎のせりふ: 二〇〇〇年代戯曲をひらく

  • 作者: 新井高子
  • 出版社/メーカー: 幻戯書房
  • 発売日: 2021/12/02
  • メディア: 単行本



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