読んでから見るか、見てから読むか。このほど映画化された三島由紀夫の「美しい星」はまず読んでから見ることにした。



 



平凡な家族がある日突然、宇宙人であることを自覚する。あの三島が昭和30年代にこんなSF作品を残していたことに驚いた。当時、世界的話題になった空飛ぶ円盤、マンテル大尉事件や米国・ソ連の核実験など、実際のニュース・世相にビビットに反応している。宇宙人や円盤(UFO)は当時、いかがわしいものとの見方がある一方で、わが国最初の全国的UFO研究団体「日本空飛ぶ円盤協会」が設立され、三島はじめ石原慎太郎や星新一、糸川英夫ら著名文化人が会員として名を連ねている。そうした時代背景を考えれば、時代の先端をいく三島が、宇宙人やUFOをテーマに小説を書いたとしても不思議はない。実際、その文明批判、深い味わいは、現代作家に例えれば筒井康隆の作品のようだ。



 



思想小説ともいわれる作品には、人類の未来について、多くの警句的文言がちりばめられている。「来るべき核戦争は集団の憎悪によって起こるよりは、そんなものと関係のない個人の気まぐれな錯乱や不幸な偶然から起こるだろう」「地球なる一惑星に住める人間なる一種族ここに眠る。彼らはなかなか芸術家であった。彼らは喜悦と悲嘆に同じ象徴を用いた。彼らは他の自由を剥奪して、それによって辛うじて自分の自由を相対的に確認した。彼らは時間を征服しえず、その代わりにせめて時間に不忠実であろうと試みた。そして時には、彼らは虚無をしばらく自分の息で吹き飛ばす術を知っていた」



 



試写を見た同僚によると、映画はわかりにくかったとか。「読んでから見る」のが正解かも。


 





美しい星 (新潮文庫)



  • 作者: 三島 由紀夫

  • 出版社/メーカー: 新潮社

  • 発売日: 2003/09

  • メディア: 文庫