ノーベル文学賞作家カズオ・イシグロの代表作「Never Let Me Go」。長崎がルーツとはいえ、英語で書かれた作品、翻訳がどうかなと危惧して読んだが、杞憂だった。どこかの新聞報道ではSFにジャンル分けされていたが、あくまで設定、枠組みがそうであるだけ。深い哀しみ、人生、運命というものについての重い思索を呼び起こしてくれる作品だ。


昨年あたりに綾瀬はるかの主演でテレビドラマになったらしいが、まったく関心のらち外だった。何の先入観もなく読んだのはよかった。英国の作家といえば、シェイクスピアやジェフリー・アーチャーなどが思い浮かぶが、やはり宗教的背景や文化の違いを理解していないと、分かりづらい表現にたびたびぶつかる。しかし、このイシグロ作品にはそうした障害がない。非英語圏の人にも十分理解でき、訴えるべき内容を含んでいる。「世界文学」といわれる所以であろう。


日本人として生まれたイシグロは、英国籍を取得したとはいえ、あくまでマイノリティであり、作品にも人種差別に通じる排他的感情が描かれる。クローンをはじめとする先進科学への懐疑、神と人間というテーマも包含している。読む人によって様々な解釈ができるし、自分の問題として捉えることができる。懐の深い文学作品だと思った。





わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)



  • 作者: カズオ・イシグロ

  • 出版社/メーカー: 早川書房

  • 発売日: 2008/08/22

  • メディア: 文庫