彩の国さいたま芸術劇場の世界最前線の演劇シリーズ、「朝のライラック」をみた。蜷川幸雄が舞台監督を務めた拠点、一度行ってみたかった劇場だったが、ここもできて25周年だという。与野本町駅から劇場までの通りにはシェークスピアシリーズに出た俳優の手形とサインが展示されていた。



作品はイスラム国が暴虐の限りを尽くしたシリアの架空の街が舞台。芸術教師のカップルが監禁され、引き裂かれる危機に追い込まれる様を描く。今も続く中東での紛争はメディアで知ってはいるが、人々の日常生活が目に触れる機会は少ない。従わなければ銃殺され、残された妻は乱暴され、子どもたちは兵士として育てられ戦場へ駆り出される。現実に起きていることを絶望の淵に追い込まれた夫婦の緊迫の一夜に凝縮した。



アラブ世界の歌姫、ファイルーズの哀愁を帯びた歌声が砂漠の乾いた空気を運んでくる。ハラーム、ハラール、結婚ジハードなど、用語解説付きで、世界情勢への関心を高める手助けもしている。上演後、プロデューサーの司会でパレスチナ出身の作者ガンナーム・ガンナームさん、劇を翻訳したNPOの渡辺真帆さんらのアフタートークもあった。日本人にとっては遠い中東の地だが、戦争の非道さ、平和の尊さを改めて噛みしめる舞台だった。