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白鶴亮翅 [読書日記]

多和田葉子さんの「白鶴亮翅」を読了。「はっかくりょうし」は太極拳の形の一つで、鶴の羽を広げる動きを表す。在ドイツ作家の体験談かしらと思う人々との出会い、交友のあれこれがユーモアを交えながら綴られる。

隣人に誘われ通い始めた太極拳教室が交流の場。ドイツ人、中国人の先生、南米、フィリピンからの移民など、いろんな出自の生徒がそれぞれの目的を持って集まる。ドイツ人の中にもポーランドやロシアから「引っ越してきた」人もいて、ドイツ人で一括りにできない現実を知る。島国ニッポンより複雑なヨーロッパの民族地図が作品の背景にある。

プルーセン人という今はドイツに吸収されてしまった民族の歴史を辿る隣人のパートナーの話が心に残る。自らのルーツを辿るのではなく、プルーセン人の世界観が好きだからという理由で歴史研究に打ち込む。ロシアのウクライナ侵攻やパレスチナとイスラエルの紛争を思い起こさざるを得ない民族を巡る問題。民族で考えると大昔からの対立や経緯が絡み合い、解決の糸口は見つからないだろう。だから、民族を越えてそれぞれ一人の人間として、隣人として、日々の暮らしをしていけば良いのではないか。作品はそんなことを考えさせてくれた。

以下は、太極拳に関する余談。作品に出てくる二十四式太極拳は毛沢東が命じて作らせた。中国で生まれた武術・太極拳は100を超える形がある。身体を整える(気を整える)ため毎朝行うには時間がかかりすぎるとして簡易版を作ったという。私が東京在住の際習っていた太極拳は台湾の王樹金老師が日本に伝えた世宗太極拳で形が九十九勢ある。基本は最初の十字手までの十四勢。渋谷に道場があるのでご興味のある方はどうぞ。
http://www.taikyokuken.co.jp


白鶴亮翅

白鶴亮翅

  • 作者: 多和田 葉子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2023/05/08
  • メディア: Kindle版





改訂新版 太極拳全

改訂新版 太極拳全

  • 作者: 地曳秀峰
  • 出版社/メーカー: 東京書店
  • 発売日: 2018/03/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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