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芝居の面白さ、教えます 井上ひさしの戯曲講座<日本編> [読書日記]

井上ひさしの戯曲講座「芝居の面白さ、教えます」を読んだ。仙台での連続講座を収録していて、真山青果、宮沢賢治、菊池寛、三島由紀夫、安部公房の戯曲について、評価を交えた解説をする。それぞれの伝記的事実を存分に語っていて、その蘊蓄に感心した。

中でも宮沢賢治の項は宗教家で科学者で教育者で作家・劇作家である奇人の姿をたっぷり語っている。貧しい東北の農民を何とか救おうとする賢治の多彩な行動の原点が理解できた。賢治の小説における朗誦性についても高く評価していて、村上春樹や吉本ばななの文体も賢治を読み込んでいるはずと分析している。

三島由紀夫の戯曲「鹿鳴館」を解説しながら、自決を知った当時は「あの人は、書くことがなくなったんだ」という感想を持ったと述懐している。いい小説をどんどん書ける自信があれば、作家は自殺しないと。

演劇論としてとても面白く、初めて知ったことが多かった。
・歌舞伎は目で楽しむもので、戸板返しなど派手な演出で「見せる」が日本の演劇の主流だった。
・いい作家・劇作家は自分の文体を持っている。司馬遼太郎は文学的に洗練された文章では入れにくい「これは余談だが」という言葉をあえて挟んでいく。自分で言いたいことを全部言える文体を考えた。
・スタニスラフスキー・システム(心理主義)は役に成り切る。文学座、俳優座、民藝、新劇は全てこのシステムだった。これに対してブレヒトの「三文オペラ」など逆の方法論(表現主義)が出てきた。

いい言葉がいっぱい出てくる一冊。
「やるだけのことやって、いい一生だったと、ニコッと笑ったときに、その瞬間が永遠に固定される。死ぬ瞬間が勝負だと思っている」
井上さんの言う通りだと思った。


芝居の面白さ、教えます 日本編

芝居の面白さ、教えます 日本編

  • 作者: 井上 ひさし
  • 出版社/メーカー: 作品社
  • 発売日: 2023/07/19
  • メディア: 単行本



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