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数学する身体 [読書日記]

森田真生の「数学する身体」。数学がつまらなくて文系に進んだ身としては、あまり縁がないジャンルだが、数式が出てこず小林秀雄賞受賞作ということで手にとってみた。アラン・チューリングと岡潔という天才二人の研究と生涯を中心にした話で、数学に対する認識が変わった。知的刺激に満ちた書だ。

学校で習った数学は、古代や現代の数学ではなくて近代の西欧数学。数式と計算をことさら重視するのは17〜19世紀の西欧数学に特有の傾向で、それ自体が普遍的な考え方ではないという。古代ギリシア人は幾何学的論証を重視し数値的計算は持ち込まなかった。現代数学も抽象的な概念や論理を重視する方向に進んだという。計算して何になるんだと思った高校時代に、こんな話を知っていれば理系にもっと興味を持ったかもしれない。

岡潔の話となると、数式は出てこない。むしろ哲学的。「過去なしに出し抜けに存在する人はいない。その人とはその人の過去のことである。その過去のエキス化が情緒である。情緒の総和がその人である」。人は皆「風景」の中を生きている。知識や想像力といった要素が混じって立ち上がる実感が魔術的環世界と認識され、それが「風景」となっているという。虫には虫の、猫には猫の環世界がある。数学にも数学的風景があって、その中を数学者たちがいろんなツールを使いながら探求を続けている。数学を極める、研究を極めるには、人間ができていなければならないというくだりもあり、生き方ということを深く考えさせてもくれる。


数学する身体(新潮文庫)

数学する身体(新潮文庫)

  • 作者: 森田真生
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/10/19
  • メディア: Kindle版



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