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夕暮れの時間に [読書日記]

先日亡くなった山田太一さんのエッセイ集「夕暮れの時間に」を読む。男たちの旅路、ふぞろいの林檎たちといったドラマで時代を映してきた脚本家。数ある著作の中でタイトルに惹かれてKindleで読んだ。

河出文庫の巻末に病気退院後のインタビューがあり高齢者になってからの文章と知る。これまでの仕事にまつわる話や出会った人々、書評が主な内容。静かで穏やかで遠慮深い人柄が表れていた。全編に言葉へのこだわり、脚本家だけに誰かが喋って頭に残っているという一節が載っていて、つい書き留めたくなるフレーズがいくつか。以下に記す。

小津安二郎の確信(中野翠がいう)
人の心の、人の世の、ダークサイドにばかり真実がひそんでいるのではない、キレイゴトの中の真実を描くほうが案外難しいんじゃないか

物語と小説の違いは、小説には人生があり物語にはない。
物語はありそうもない話の楽しさがあり、そこに込められる寓意、端的な人生の要約もある
小説は「ありそうもない話」も、人生の細かな本当を積み上げて「ありそうな話」にしてしまう装置である(パトリス・ルコントの「ぼくの大切なともだち」に関連して)

吉野弘
魂のはなしをしましょう
魂のはなしを!
なんという長い間
ぼくらは魂のはなしをしなかったんだろう

永井荷風の言葉
中年のころから子供のないことを一生涯の幸福と信じていたが、老後に及んでますますこの感を深くしつつある
生きている中、わたくしの身に懐かしかったものはさびしさであった。さびしさの在ったばかりにわたくしの生涯には薄いながらにも色彩があった


夕暮れの時間に (河出文庫)

夕暮れの時間に (河出文庫)

  • 作者: 山田太一
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2018/05/25
  • メディア: Kindle版



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