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失われた時を求めて〜見出された時 [読書日記]

「失われた時を求めて」第7篇「見出された時」を読了した。文庫本で全13巻、10カ月がかりの読書体験。最終篇では作者プルーストの文学への思いが語り手が語る芸術論、文学論の形で示される。

「鳥の目」で自らの生涯を見渡し、出会った人たちとの交流を微に入り細に入り「虫の目」で描く。会話の中では、欧州を中心に古今東西の歴史、哲学、文学、美術、音楽が散りばめられ、当時のパリの社会情勢や最先端の風俗が場面を彩る。フランスを中心とした欧州の歴史やフランス語の知識がないと理解が及ばないシーンも多々あった。自ら3度目の挑戦でやっと読み通したが、フランスに語学研修に行ったり、歴史的な国際政治の流れを学んだりした経験があったからこそ、理解力が高まり何とか最後まで放り出すことがなかったのではないかと自己分析している。

この作品が公に出たのは第一次世界大戦後のこと。現代の視点から思うのは、同性愛が作品の主テーマの一つになっていて、当時の日本を思い浮かべると、文化状況の違いというものを強く感じた。

私たちがある時期に目にした物、読んだ本は、その時周囲にあったものに永久に結びついているわけではない。当時の私たち自身にも忠実に結びついている。それを再び感じたり考えたりできるのは、当時の私たちの感受性、思考、人格のみだ。

本質的な書物、唯一の真実な書物は、すでに私たち各人のなかに存在しているのだから、大作家は普通の意味でそれを作り上げる必要はなく、ただそれを翻訳しさえすればよい。作家の義務と仕事は、翻訳者のそれなのだ。

芸術作品こそ<失われた時>を見出す唯一の手段だ。文学作品の全ての素材は、私の過ぎ去った生涯であることを私は理解した。

作家は「読者よ」と言うが、実を言えば、一人ひとりの読者は本を読んでいるときに、自分自身の読者なのだ。作品は、この書物がなければ見えなかった自身の内部のものをはっきりと識別させるために、作家が読者に提供する一種の光学器械にすぎない。


失われた時を求めて 12 第七篇 見出された時 1 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

失われた時を求めて 12 第七篇 見出された時 1 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/03/20
  • メディア: 文庫



失われた時を求めて 13 第七篇 見出された時 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

失われた時を求めて 13 第七篇 見出された時 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/03/20
  • メディア: 文庫



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