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やさしい猫 [読書日記]

中島京子さんの「やさしい猫」を読む。以前から一度読んでおかなくてはと思っていた作家。日本で働き暮らす外国人の在留許可の問題を新聞の連載小説で取り上げた。首都圏では特に身近に外国の人たちがいるし、もう彼ら無くして日本の社会は成り立たない。それなのに入管に収容されて亡くなったり、家族と引き裂かれて強制送還されたりするケースが相次ぐ。難民受け入れも含めて、外国の人たちを受け入れる体制にこの国はなっていないと改めて感じる。

ひとり娘を育てるシングルマザーとスリランカ人の自動車整備工が出会い恋をして、家族になる。しかし会社が倒産し、オーバーステイで捕まり、入管に収容されてしまう。日本人と結婚すれば、配偶者として在留許可がもらえるとか、勝手に別の仕事に就くことができないとか、多くの制約があることを恥ずかしながら初めて知った。

欧米などと比べると、外国から人を受け入れる際の障壁が日本は随分と高い。陸の国境がない国土や、自国の労働者を守る政策が長年、異国の人々を拒んできたのだろう。しかし時代は変わった。経済で先行するグローバリズムは、社会政策にも影響を及ぼしている。コロナで人の往来が止まる事態は、一国だけではもはや何事もできないボーダーレス世界の現実をあぶり出した。文化の違いを尊重し合う社会へ、その断面を見事に描いた作品だった。


やさしい猫

やさしい猫

  • 作者: 中島京子
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2021/10/22
  • メディア: Kindle版



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藤井聡太論 将棋の未来 [読書日記]

将棋の谷川浩司十七世名人による藤井聡太論。豊島竜王を4連勝で破って史上最年少の竜王奪取と4冠達成を成し遂げた藤井聡太のどこがすごいのかを、かつて天才棋士と言われた谷川さんが解説する。

AIの方が人間の棋士より強いことは数年前に決着がついた。今や多くの棋士がAIを使って研究をしている。取った相手のコマを使えるというルールのため、世界でも有数の難解なボードゲームと言われる将棋だが、AIが1手ごとに最善手を予想できるならば、いつかは絶対勝てる指し方が開発されるはずだ。その答えを求めてプロの棋士たちは日々、研究と対局を続けている。

将棋の反則は3つ。行き場のないところに駒を指すのはだめ、二歩、歩詰め。シンプルなこのルールを守った上で、絶対勝てる指し方が発見された日、将棋はゲームとしての命を失う。もちろんプロ棋士は失業する事になる。厳しい世界だ。


藤井聡太論 将棋の未来 (講談社+α新書)

藤井聡太論 将棋の未来 (講談社+α新書)

  • 作者: 谷川浩司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/05/20
  • メディア: Kindle版



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むずかしい天皇制 [読書日記]

社会学者の大澤真幸さんと憲法学者の木村草太さんの対談本を読む。眞子さんのこともあって、改めて天皇制について考えてみたかった。若い頃は天皇制反対を叫ぶのがリベラルな若者のトレンドで、階級社会、社会の差別構造の根幹にあるのは天皇制だと考えていた。今もその構造は変わらないと思うが、ただ天皇制を廃止するべきだとは思わない。政治が劣化する中で、平成天皇のリベラルな発言のように象徴天皇が居てよかったと心底思うことがあるからだ。この本でも同様の認識があり、何度か頷くことがあった。以下は頭に残ったフレーズ。

神話に関する定義。「片方が非真実だと知っていて片方が知らない場合を虚偽といい、両方が非真実だと知っているとフィクションといい、両方が非真実だと知らないと神話という」。誰かが嘘だと知ってしまうと神話は虚偽になり、神話ではなくなる。からくりを知ってしまうと機能しなくなる。
天皇制を近代的制度に整える際に側室制度を野蛮なものとしてやめた。万世一系を可能にしていた条件を捨てたのだから存続が困難になるのは当然。
天皇、皇族だけは特別な身分。歴史を振り返ると、日本社会における身分とは、基本的には天皇からの距離だ。公家は朝廷に仕える身分で武家に対して威張れる根拠はここにある。公家の中でも殿上人でなければ大したことはないとされる。明治維新は身分を無にしたが、身分を生み出す源泉としての天皇だけは排除しなかった。


むずかしい天皇制

むずかしい天皇制

  • 出版社/メーカー: 晶文社
  • 発売日: 2021/05/25
  • メディア: Kindle版



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