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人事の日本史 [読書日記]

遠山美都男、関幸彦、山本博文の著作。日本史研究の学者の手による新書だったが、「へえ」という話が満載で面白かった。高校時代いらい日本史の知識がいかに更新されてないか。最新の研究成果を盛り込んだエピソードで随分と日本の歴史の見方が変わった。

特に古代はあまり興味がなく勉強してこなかったこともあり、聖徳太子や推古天皇の時代の話は新鮮。憲法十七条が今の憲法とは違い、公務員の服務規程だったとは。冠位十二階の制度がそもそもの日本の人事昇進システムのはじまりだったなんて。教科書に載ってたっけ。

かの菅原道真は今でいう竹中平蔵。学者大臣として権勢を振るったが、学閥争いの中で嫉妬を買い、太宰府に流された。定説だった藤原氏の陰謀ではなく、菅家廊下を妬んだライバルの仕業だった。負け組だったのに人々の心に残り続けた平将門。戦に破れても負けなかった人って、確かにいるよなあ。歴史の向こうに思いを馳せながら、今の世の会社人生を思う。


人事の日本史 (朝日新書)

人事の日本史 (朝日新書)

  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2021/08/12
  • メディア: Kindle版



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帰ってきたヒトラー [シネマ&演劇]

ドイツのティムール・ヴェルメシュのベストセラー小説を映画化。絶対悪であるナチス・ヒトラーがタイムスリップして現代に蘇る。ひょんなことからモノマネ芸人として大ブレイク、騒動を巻き起こす風刺コメディをAmazonで見た。

オリヴァー・マスッチ扮するヒトラーがまさにそっくり。変わらぬ情熱的な弁舌で愛国心を煽る演説をする。広がる経済的格差、流入する移民、社会の閉塞感、鬱積する不満。ナチスが台頭した時代を彷彿とさせる現代の時代状況がモノマネ芸人ヒトラーの演説をテレビで聞く視聴者に共感をもたらす。

国民的な人気者となった芸人ヒトラー。しかし、おぞましいホロコーストの記憶の中に生きる認知症の老女は突然正気を取り戻し、嫌悪感剥き出しの言葉を彼に投げつける。その激しい言葉は、映画を笑ってみていた我々に、仮面を被って忍び寄る全体主義の危うさを思い出させる。毒がてんこ盛りのあぶない映画だ。デヴィット・ヴェント監督。


帰ってきたヒトラー 上下合本版 (河出文庫)

帰ってきたヒトラー 上下合本版 (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2016/05/20
  • メディア: Kindle版



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言葉の魂の哲学 [読書日記]

サントリー学芸賞を受賞した古田徹也の著作。中島敦とホーフマンシュタールの小説に出てくるゲシュタルト崩壊(字をじっと見つめると線の寄せ集めに見えてくる現象)から説き起こし、魂ある言葉、生きた言葉を使うことの大切さを訴えている。

人工言語エスペラントが普及しなかったのは、言葉が生活に根ざしてないから。連想を呼び起こさない言葉は言葉ではない。九鬼周造の名著「いきの構造」にも言及し、いきという日本語が持つ多様な意味を紹介する。ウィトゲンシュタインは「言葉は生活の流れの中で初めて意味を持つ」と指摘する。

哲学的な探究の話の部分は少々難しいが、言葉を選ぶ責任を語る章で、オーウェルの「1984」の話が出てきて俄然面白くなった。1984はナチスに代表される全体主義の恐ろしさを描いた。作中に出てくる公式言語「ニュースピーク」は年々語彙が減ってゆく言語として描かれる。常套句の氾濫、決まり文句の洪水が人々を押し流し思考停止に追い込み、単一の方向に誘導していく。ナチス、ヒトラーのプロパガンダはそのお手本だった。政治の言葉の特徴は、論点をぼやかす曖昧で婉曲な言い回し、物事を名指ししつつ、それに対応するイメージを喚起させないことを狙った決まり文句である。

例えば、日本語の「遺憾」。思っているようにいかず残念なことだが、政治家は「すみません」というべき場面で「遺憾です」と言う。「遺憾」は、「残念」の他に「申し訳ない」という意味を持つ多義語ではない。論点をぼやかし嘘をホントと思わせることを企図しているのだ。言葉を選ぶ時に「しっくりこない」という迷いがあるのは、「道徳的な贈り物である」と指摘する。決まり文句への拒絶が、敵意や差別意識を拡大させないことにもつながる。自分でもよくわかっていない言葉を振り回して自らや人を煙に巻いてはいけない。中身のない常套句で迷いを手っ取り早くやり過ごして思考を停止してはならない。言葉に携わる人間として、そうした倫理を大切にしたいと心から思った。


言葉の魂の哲学 (講談社選書メチエ)

言葉の魂の哲学 (講談社選書メチエ)

  • 作者: 古田徹也
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/04/27
  • メディア: Kindle版



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