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水惑星の旅 [読書日記]

椎名誠の「水惑星の旅」を読了した。シーナの著作と言えば、ウホウホと探検したりワシワシと飯を食らい大酒を飲みキャンプしたり、楽しきアウトドアの話が好きだった。この本はそんなシーナが国内外の現場に行き専門家に話を聞き、まとめたルポ。このところ雨続きで列島は水浸しになったり崖崩れになったりだが、世界的には大変な水不足の時代なのだと、改めて認識を深めた。

日本の河川は、全て国有ということもあって、国境を跨ぐ「国際河川」が当たり前の海外の水事情には、ふーんと思う。いわゆる水争いで国際紛争に発展することもしばしばらしい。中国の黄河のダム乱造や、エジプトのアスワンハイダムの環境汚染など、初めて知った。

飲めない水を飲めるようにする技術は、日本のメーカーがかなりの世界シェアを占める。水の豊かな日本でも離島などは天水生活を送ってきた地区も多いらしい。大切な水のことを色々と考えさせる一冊だった。


水惑星の旅 (新潮選書)

水惑星の旅 (新潮選書)

  • 作者: 椎名 誠
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/05/25
  • メディア: 単行本



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国体論 菊と星条旗 [読書日記]

白井聡の著作。「国体」という古めかしい言葉のタイトルからして、右翼的主張かと思ったら違った。天皇とアメリカの関わりを軸に戦後レジームという視点で、日本の統治体制の実態を明らかにしている。2022年は明治の近代化から数えた戦前と、敗戦後の長さが同じになる(77年)節目。混迷するこの国がどこへ向かうのか、考えさせられる一冊だった。

象徴天皇制という形で戦後も天皇制は残った。敗戦後の日本を占領することになる米国は、天皇の戦争責任は問わずに天皇を残した方が統治しやすいと考えた。マッカーサーが昭和天皇の人柄に惹かれたのは確かとしても、それを持って天皇に温情をかけたわけではないのだ。米国が頂点に君臨し、天皇が権威としてあり、その下に政治がある。駐留米軍とともに、この戦後レジームはなお続いている。

我々日本人は米国から民主主義を授かったと思っている。しかし、本来与えられた民主主義はあり得ない。それは勝ち取るものであり、そうした意味では真の民主主義はこの国には育まれなかった。当時の米国にはレイシズムが今よりも激しく、アジアに対する蔑視は酷かった。日本人には民主主義などわかるまいと考えていた。結局、米国が日本に与えたのは、アジアにおける唯一の「一等国」という地位と、それに伴う優越感だった。親米一辺倒、暗愚の安倍政権で極まった混迷ニッポン。自民政権がなお固執する改憲も、憲法の上位に日米安保が存在するレジームの中で果たしてどんな意味があるのか、そう指摘している。


国体論 菊と星条旗 (集英社新書)

国体論 菊と星条旗 (集英社新書)

  • 作者: 白井 聡
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2018/04/17
  • メディア: 新書



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日本のいちばん長い日 [読書日記]

半藤一利さんの「日本のいちばん長い日」を読了した。最初の出版時は大宅壮一編として世に出たが、その後加筆して「決定版」として半藤さんの名前で出版された文庫版。終戦の夏、ポツダム宣言受諾の御前会議から昭和天皇による玉音放送まで24時間のドラマ。敗戦と降伏という経験したことのない事態に、戦争指導者たちは何を考え、どう行動したのか。丹念に証言を集めて官邸と宮城の内情を描く。

特に興味深かったのは、鈴木貫太郎首相、阿南陸相の人物描写。名前は知っているが、どんな雰囲気をまとい、どういった言動を残したのか、初めて知った。ポツダム受諾のためには天皇の裁断しかないと心に決め、じっと機が熟すのを待った鈴木首相。すでに150万の犠牲を払っていた陸軍の総帥・阿南陸相は帝国陸軍の軍人たちのプライドを最低限守るために全力を注いだ。

クーデター計画が進行していて、実際に宮城の近衛師団が反旗を翻し、公共放送NHKの放送局を占拠したこと。跳ね返りの軍人が官邸や首相らの自宅を襲撃したことなど、そんな事実さえ知らなかった。陸相らは結局、自決することで責任を果たし、軍の規律を守った。戦争を始めるより、やめることがいかに大変か。終戦の日を前に歴史を振り返り、日本の進路を思う。


日本のいちばん長い日 (角川文庫 緑 350-1)

日本のいちばん長い日 (角川文庫 緑 350-1)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/08/14
  • メディア: 文庫



日本のいちばん長い日(決定版) 運命の八月十五日

日本のいちばん長い日(決定版) 運命の八月十五日

  • 作者: 半藤 一利
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/09/20
  • メディア: Kindle版



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天神イムズ 最後の展覧会 [アート]

福岡市天神のイムズが8月末で閉じる。モノを売るだけでなく情報を発信するというコンセプトが新しかった黄金のビル。演劇やコンサートなどのステージは行く機会がなかったが、8階の三菱地所アルティアムである展覧会には何度も足を運んだ。

現代アートをいち早く紹介し続けた。最後を飾ったのは、この場所で作品展をやった作家たちのコラボ展。鹿児島睦、塩田千春、山内光枝らが出品した。詩人の最果タヒも参加。「絶望を覆すことができない恋を正義とせよ、きみが、死んでも残る花。」というフレーズがそのままラスト展覧会のタイトルになっている。

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ビルの黄金タイルは有田焼と初めて知った。かつては本屋があったし、自動車のショールームもあったなあ。レストラン街では、明るいうちからジョッキを傾けたこともあった。閉館を前に久しぶりに各階を巡ってみたが、すでに閉店しているところもあり、一抹の寂しさが漂う。吹き抜けの空間には「さよなら」の垂れ幕が。天神ビッグバンと銘打って進む再開発、また一つ思い出の場所が消えた。

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