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「線」の思考 鉄道と宗教と天皇と [読書日記]

鉄道に乗って沿線の宗教施設や史跡・古墳を訪ねる旅の記録。現場に赴き痕跡から歴史や思想の地下水脈を探る。宗教や天皇の知られざる姿を知る、ミステリーのような紀行だ。

応神天皇(八幡神)の母とされる神功(じんぐう)皇后。三韓征伐をした聖母(しょうも)といわれる。その神功皇后の足跡がJR筑肥線・松浦鉄道の沿線にある。征伐を前に勝利を占ったりした場所が言い伝えられ神社になったり、史跡として残っていたりする。もちろん地名にも残っているという。どこまでが史実でどこまでが伝説か境界線は不明だが、我々が知らない歴史、特に天皇にまつわる歴史があることを知る。

日蓮は東国の出身で、房総三浦環状線にその足取りがあると知る。創立当初は迫害を受けたという歴史も知る。山陽の方にも新興宗教の総本山がいくつもあるのを知る。数多の宗教にそれぞれの信者がいる現実。冠婚葬祭の時にしか、宗教を意識しない身としては、別世界を眺めるような気分で1冊を読み終えた。原武史著。


「線」の思考―鉄道と宗教と天皇と―

「線」の思考―鉄道と宗教と天皇と―

  • 作者: 原武史
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/10/16
  • メディア: Kindle版



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東京オリンピック開会式を見た [雑感]

57年ぶりの東京オリンピック開会式を見た。NHKで延々4時間中継、どんな演出とサプライズがあるのか。小学生の頃、まだ珍しいカラーテレビの前に家族が集まり、入場行進を見守った。思い出をたどり時の移り変わりを思いながら、家族とデジタル映像を見つめた。建設段階から無観客を想定したような座席の彩色。2019年12月の新国立競技場完成イベントで眺めたフィールドを思い浮かべながら、その皮肉な偶然を思う。

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開会イベント責任者の相次ぐ辞任・解任騒ぎがあったのも含めて、混沌とか迷走という言葉が頭をよぎった。テーマは「多様性と調和」。多様なルーツや経歴があり、政治的立場があり、ジェンダーの壁があり、そういった課題をコロナ禍の制約の中で詰め込んだのか。多様性は表現できたかもしれないが、調和というか、まとまりは今一つのような。現実世界を考えれば、多様性を認め合うこと自体に踏み出したばかりであり、そういった意味では現状を反映した、まさに「オリンピックは世界の鏡」と言えたのかもしれない。

ゲーム音楽の行進曲、漫画・アニメ風のプラカードとアテンダントの衣装。歌舞伎や祭りだけではなく、世界の若者たちに支持されている日本のサブカルチャーを前面に押し出した演出は、昭和の五輪との違いを際立たせた。海外から見たニッポンのクールな一面。鴻上尚史がNHKでやってた番組をふと思い出した。ただ五十音順の選手団入場というのは、どうなのだろう。日本開催なんだから「郷にいれば郷に従え」ということなのか。そこにナショナリズム的な臭いを嗅ぎ取るのは、考えすぎだろうか。
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恋するアダム [読書日記]

久しぶりに翻訳物を読む。ブッカー賞作家イアン・マキューアンの最新長編。AIを搭載した見かけも人間と違わないアンドロイドのアダムが持ち主の彼女に恋をして大騒動になる。英国の実在の著名人が登場するパラレルワールドの話として、とんでもない設定なのにリアルに描かれている。ユーモアと皮肉たっぷりなストーリーを楽しんだ。

サッチャー時代のフォークランド紛争で騒然とするロンドン、再結成したビートルズの新曲が出たり、伝説の天才数学者アラン・チューリングが重要な役回りで出てきたり。虚実とりまぜた組み立てになっているが世界の出来事やテクノロジーの歴史の雑学があった方が楽しめるかも。AIが囲碁やチェスの名人を下す話も出てきて、いつかはAIに人間は支配されてしまうのではないかという現代人の不安を背景にしている。

アダムはネット上からあらゆる知識を渉猟して知能を高度化する。しかし子どもの知能には敵わない。遊びの中でいろんなものを発見していく柔らかな脳。AIにはそれはできないのだ。わかってきたのは、人間の知能というのは1種類ではないということだ。故に万能のAIというものない。何しろ人間のことを、脳のことを、いまだによく理解していない人間が作るAIなのだから。村松潔訳。


恋するアダム (新潮クレスト・ブックス)

恋するアダム (新潮クレスト・ブックス)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2021/01/27
  • メディア: Kindle版



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響ーHIBIKI [シネマ&演劇]

欅坂46の絶対的エースだった平手友梨奈の初主演作をアマゾンプライムの配信で見る。天才女子高生作家の衝撃デビューにまつわるすったもんだを描く。柳本光晴の漫画が原作。アイドル出身にありがちなラブコメとかではなく、ガチに小説を愛する今風の文学少女の現在を例によって、ほとんど笑顔なしの平手が演じる。

リアル女子高生ではありえない、やたら暴力的な行動は、いかにも漫画的。でも信念を曲げない一途な姿は、周りに迎合する大人たちへの反抗という意味でスカッとする、拍手喝采の場面でもあった。

文学賞レースに敗れた作家仲間や、かつての輝きを失った大御所たちへ、厳しい一言をズケズケと突きつける。今の文壇や出版業界を痛烈に皮肉っている。周囲のことなど気にせずに、「自分が書きたいものを書くんだ」。小説を書こうとする人に原点を忘れるなとエールを送る作品でもあった。月川翔監督。




響~小説家になる方法~(1) (ビッグコミックス)

響~小説家になる方法~(1) (ビッグコミックス)

  • 作者: 柳本光晴
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2015/05/15
  • メディア: Kindle版



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アフガニスタンの診療所から [読書日記]

医師中村哲さんの名著。同じアジアと言いながら日本からは遠い国アフガニスタン。本が書かれたのは1992年だが、なお内乱が続くアフガニスタンのことを思う。米ソの覇権争いの舞台となりながら、屈することなく戦い続けたムジャヘディン・ゲリラ。復讐、昔の日本でいう仇討ちが公認されている社会。前近代の部族社会に西欧の近代国家制度を持ち込み、ヨーロッパの価値観で全てを取り仕切ろうとしたアングレース(英米)。反感の根は深いのだ。

ペシャワール会という小さな団体が母体。欧米の大きなNGO、ミッション系のものも含めて、結局莫大なカネを使いながら難民帰還の事業を進めることができなかった。現地で住民の中に分け入り、ともに暮らしてみて初めて国の現実が分かると中村さん。一点集中主義で地道にパシュトゥンの人々を育て上げて地区に診療所を作った経緯が綴られている。

国際協力、国際貢献というものの実態、貧しく困っている人たちに何かをしてあげる、自己満足に陥っていないか。いつも感じるもやっとしたものについて、中村さんは道理を説き、静かに告発している。日本を自動販売機の国と言い、人と人が触れ合うことが少なく、何か大事なものを失ってしまっていると指摘する。後進国を発展途上国と言い換えるならば、先進国は発展過剰国とでもいうべきとの指摘に頷くしかなかった。


アフガニスタンの診療所から (ちくま文庫)

アフガニスタンの診療所から (ちくま文庫)

  • 作者: 中村 哲
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2005/02/09
  • メディア: 文庫



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社会思想としてのクラシック音楽 [読書日記]

経済学者の猪木武徳さんが趣味というより専門家に近い知識と探究心でもって、クラシックと言われる西欧の作曲家と時代を解きほぐす。新聞の書評で、今年上半期一番の収穫という折り紙付だったので、迷わず買って読んだ。

クラシックはショパンやバッハなど、気に入ったものしか聞かないので、それほどの知識はない。クラシック辞典の助けを借りながら読み進めた。モーツァルトの映画「アマデウス」で垣間見てはいたが、18世紀ごろの楽士は教会や貴族の雇われで、決して身分が高いものではなかった。報酬も安く、生活に苦労したという。

数多の作曲家が出てくるが、猪木さんの好みもあってか、ハイドン、バッハが頻出する。でも、クラシックというのは、聞けば聞くほどハマっていくのかも。若い頃はジャズだったが、最近はあまり心を動かされない。年齢というか、生活環境によって、聴いていたい音楽は変わるのかも。心が平静で穏やかに過ごしたい。ページをめくりながらいくつか聴いてみたい曲があった。少しクラシックに凝ってみようかと思う。


社会思想としてのクラシック音楽(新潮選書)

社会思想としてのクラシック音楽(新潮選書)

  • 作者: 猪木武徳
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2021/05/26
  • メディア: Kindle版



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