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ドライブ・マイカー [シネマ&演劇]

アカデミー賞候補の作品を遅ればせながら見に行った。村上春樹の原作をもとに濱口竜介監督がイメージを膨らませた。ベケットの不条理劇「ゴドーを待ちながら」、チェーホフの4大劇の一つ「ワーニャ叔父さん」の劇中劇が映画のテーマを暗示する。

俳優役の西島秀俊と岡田将生は知っていたが、妻の音役の霧島れいか、ドライバー役の三浦透子は初めて知った。霧島はモデルだけあってホント美人さんで醸し出す色気がたまらない。三浦は「天気の子」のテーマを歌ったシンガーだと後から知ったが、無表情なドライバー役が印象に残った。

ワーニャ叔父さんの舞台には日本と韓国、中国の人たちが出演し、手話のセリフもあった。多言語という場を作り、この作品のテーマの一つであるコミュニケーションの困難さと大切さを表したのだろう。夫婦であっても、親子であっても、ちゃんと向き合って話をすることは意外とない。家族という関係ゆえにお互いを気遣い、遠慮が生まれるのか。チェーホフは劇の中で、失意と絶望に陥りながら自殺もならず、悲劇は死ぬことではなく生きることにあると主張する。それでも人は生きる。人生の無意味、目的や意義のなさを知りながらこの不条理な世界を生きていくのだ。

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 [読書日記]

先日亡くなった石原慎太郎さんの「弟」を読む。弟・石原裕次郎とタッグを組んで時代の波に乗り続けた半生を語った一冊。海、ヨット、マチスモというキーワードから立ち現れるのは、父親=父性の復権とでもいうものか。早く亡くなった父への思いは、兄弟して終生変わらなかたようだ。

「太陽の季節」で芥川賞をとり弟を映画界に売り込んだ。「狂った果実」から始まる銀幕での活躍より、「太陽に吠えろ」「西部警察」のボスで馴染みがあった裕次郎。自由気ままな行動が大衆から愛されたが、ストレスから来る不摂生で病苦を重ねた。最期の場面は読んでいても辛い。

慎太郎は文学から政治の世界へ入ったが、二人に共通するのは既存の権威に楯突くこと。政治家・石原は自ら「価値紊乱者」と称した。カッコよく打ち出した新奇な政策は注目を集めた。しかし、その一方では「三国人」発言など数々の暴言で世間を騒がせ、人を傷つけもした。既成概念を壊すことには少しは成功したかもしれないが、結局新しいものは創造できなかった。時にはブラフを使い、相手を脅して自らの意思を通そうとした。危うさばかりが心に残った。慎太郎の訃報を受けた新聞の論評には、「戦後日本の進んできた姿と重なる」とあった。


弟

  • 作者: 石原慎太郎
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2013/08/30
  • メディア: Kindle版



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写真生活 [読書日記]

本の装丁を手掛けるデザイナー坂川栄治さんの「写真生活」を読む。写真を撮るのではなく写真を飾る方で、オリジナルプリントを求めて海外へ行き目当ての写真を見つけて買い付け。ついにギャラリーまで開いた、そのハマり具合がすごい。

著名な写真家、と言っても知っているのはユージン・スミスくらいだったが、彼らの作品の魅力を写真集を紹介しながら語る。写真は全てモノクローム。最近でこそ新聞、雑誌もカラーが当たり前になったが、かつてはみなモノクロだった。でもモノクロでもその場面が色付きで見える。記憶の中ではイキイキとした天然色になっている。人間の想像力を掻き立てるのはやはりカラーよりモノクロだと思う。

コンスタンティン・ブランクーシは写真を「光の彫刻」と表現した。セルフポートレイトさえ入念な準備をして撮影したという。(自己プロデュース力!)
ジョージア・オキーフという女性画家の話。人の年齢について、毎日の鏡に映った姿や写真など人の目に映る外側の姿は70代であっても、その人が実感している内側の年齢は50代ぐらいのような気がしている。だから人の年齢の内外というのは「7掛け」くらいの差があるのではないか。(同感!)
アルベルト・レンガー=ハッチュの「世界は美しい」というタイトルの古典的写真集。現象や物の中にある「リズムのようなもの」。それをよく見ることで様々な美しさを発見できる。世界は美しいものに溢れている!(その通り)


写真生活

写真生活

  • 作者: 坂川 栄治
  • 出版社/メーカー: 晶文社
  • 発売日: 2002/09/01
  • メディア: 単行本



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老人力 [読書日記]

かつて一世を風靡した赤瀬川原平さんの「老人力」(全一冊)を読む。超芸術トマソンや路上観察学会、ライカ同盟などの何でも面白がる活動で知られた芸術家。ベストセラーになった当時は読み損ねていたが、続編も併せて文庫本になったのを機に買い求め、このたびようやく読む気分になった。

物忘れ、繰言、ため息など、ボケと言われてきた現象を「老人力がついた」と前向きに捉える。元気な老人パワーとは違う。芸術の如く生産性は求めず、味わい深く、適当な日常を楽しみ、笑い飛ばす。なるほどと思う。老人力を読む年頃になったのかなと少し感慨深い。

赤瀬川さんは何年か前に鬼籍に入られたが、考えてみるとこの数年どのテレビでもやっている路上ぶらぶら番組の元祖は、路上観察学会だろう。カメラ片手に街を散策する楽しさ。ライカファンの話を読むにつけ、ああ究極の趣味のカメラ、ライカが欲しいという感情がむくむくと湧いてきた。でも高いんだよね、また宝くじでも買い始めるかな。


老人力 全一冊 (ちくま文庫)

老人力 全一冊 (ちくま文庫)

  • 作者: 赤瀬川 原平
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2001/09/01
  • メディア: 文庫



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ハングルへの旅 [読書日記]

先日 NHKで詩人茨木のり子のインタビュー音源が見つかったという番組をやっていた。以前「思索の淵にて」という対談本を読んで、好きな詩人の一人になった。思い立って書棚に眠っていた「ハングルへの旅」を引っ張り出して読んだ。隣国への愛の溢れる一冊だった。

本によると、小さい頃に「朝鮮民謡選」に触れ心の奥底に隣国への関心が芽生えた。大人になり心惹かれる仏像の多くが渡来系、つまり朝鮮半島の出自を持つことに気づいた。50代から新宿の教室に通いハングルを学び、たびたび渡韓する程にのめり込んだという。

古代朝鮮語と日本語の関わり、俗談(ことわざ)の面白さを知る。心に残ったのは、崔承喜という伝説のダンサー。初めて聞いた名前だったが、戦前の日本で熱狂的に持て囃され、戦後は北に渡りその後の消息はあまり知られることはなかったという。日韓の交わりは長くて深い。





ハングルへの旅 (朝日文庫)

ハングルへの旅 (朝日文庫)

  • 作者: 茨木 のり子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 1989/03/01
  • メディア: 文庫



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