阿久悠記念館 [雑感]
東京・駿河台の明治大学にある阿久悠記念館に行ってきた。この前行った淡路島の出身と知り、稀代の作詞家のことに興味を持った。
入り口にあるEPレコードを眺め、昭和の歌謡曲全盛時代を振り返った。かつては年の瀬の大イベントだった、レコード大賞のトロフィーが並ぶ。また逢う日まで、勝手にしやがれ、熱き心に、ヒット曲の数々。どれだけ歌ったろうか。年表を見ながら歌詞を口ずさめば、その頃の情景が蘇る。
作詞は手書きで、ぺんてるのサインペンを愛用していたという。そのサインペンは書きやすくて、自分も年賀状書きに毎年愛用している。同じものを使っていたと知り、少し嬉しかった。阿久悠の著作は「清らかな厭世」を読んだが、他の著作や重松清の評伝など、久しぶりに読んでみようか。
夢を食った男たち―「スター誕生」と歌謡曲黄金の70年代 (文春文庫)
- 作者: 阿久 悠
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/12/06
- メディア: 文庫
天皇誕生日の一般参賀 [雑感]
23日に天皇誕生日の一般参賀に行ってきた。平成最後だし、自らも節目の歳を迎えたし、皇居も近くだし、あまり寒くもないし、と思い立って、朝7時に家を出て7時半には和田倉門に着いた。夜があけたばかりなのにすでに長い列。坂下門方向に向いて2列目の最後尾に並んだ。きっと天皇を崇拝しておられるのだろうと思しき団体の方から日の丸の小旗をもらい、警視庁の警備の人たちに従い、じっと列が動き出すのを待つ。テレビのクルーがすぐ前に並んでいる白髪の老人を密着取材するらしく、しきりに打ち合わせをしていて忙しない。業界人特有のぞんざいさが滲み出ているカメラマンがとても鼻についた。
1時間ほどしてようやく荷物、身体チェックのテントへ誘導される。荷物検査で時間を取られないよう手ぶらで来た甲斐があり、迅速に関門を抜け、二重橋前の広場の行列に並べた。早朝参賀1組に入れたようで、10時25分の開門までさらに1時間待機する。一番先頭には日の丸の法被を着て、天皇陛下を寿ぐ幟を掲げた団体の人たちがいたが、ほかは皆一般ピープル。家族や夫婦で連れ立ってという感じが多く、お年寄りは思ったより少なかった。
開門と同時にゆっくりと列が動き出し、立派な彫刻が厳かな橋を渡り皇居内へ。昔の江戸城なので入れば坂道で、掃き清められた庭園や城壁などを見て歓声が上がった。二重橋を渡り、いよいよ皇居内の広場に入る。お出ましがあるガラス張りのベランダがすぐに目に入る。後方にはテレビカメラの列が陣取る。思ったより広く、そんなに押し合いへし合いすることもなく、すんなりと中央の前方をキープできた。両サイドに大型モニターがあり、諸注意が表示されるが、日本語の他には英語と中国語だけで、ハングルはなし。どういう基準なのだろう。
雨がぱらつく中、待つことしばし。天皇陛下はじめご一家のお出まし。歓声と小旗を打ち振り、祝福した。天皇陛下万歳と大声で叫ぶ人たちは一部で、おめでとうございますと声をあげる人が多かった。自分も天皇陛下万歳と叫ぶのには抵抗がある。心の中で大変でしたね、お疲れ様でしたと呟いた。
陛下のお言葉を聞いて思った。平成の30年間、大きな災害が続いたが、戦争がなかった時代として、平成が終わりかけていることだけは本当によかった。政治は疲弊し、権力者は肝心なことは誤魔化し、偽善的で不誠実な言質ばかりが目立つ。不愉快な今の日本に皇室という制度が残っていてつくづくよかった。トランプの米国、マクロンのフランスの現状は決して人ごとではない。国民統合の象徴として、国家元首として、政治的権限を持たない天皇が存在する。国の未来を考えるとき、そうした幸運を思わずにいられない。
ナディアの誓い [シネマ&演劇]
2018年のノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラドさんのドキュメンタリー映画を試写でみた。イラク北部でISIS(イスラム国)の襲撃を受け、性的暴行をされながらも脱出し生き延びた23歳の彼女。ヤジディ教徒への迫害を世界に訴えるため、自ら広告塔となり国連親善大使となるまでの道のりを描く。
フセイン時代からクルドへの弾圧はあったが、ISISになって異教徒への迫害は言語を絶するほどエスカレートしたらしい。ヤジディ教徒の存在についてはノーベル平和賞絡みで初めて知った。カナダや英国の議会で話し、ニューヨークの国連本部でもスピーチする機会を得る。セレブ弁護士として有名なジョージ・クルーニーの妻アマル・クルーニーが関心を持ち、米国メディアにも取り上げられるようになる。
日本国内ではこれまで情報が少なかったこともあり、ヤジディ教がどんなものかという説明が欲しかったが、必死に訴え続ける彼女が民族にとって唯一の希望の灯となっている現実を知った。難民として離散したヤジディ教の人々が故郷に帰れる日は来るのか。いろいろと批判のある平和賞だが、世界がこうした問題を認識する契機を作ったのは意味のあることだ。
THE LAST GIRLーイスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語―
- 作者: ナディア・ムラド
- 出版社/メーカー: 東洋館出版社
- 発売日: 2018/11/30
- メディア: 単行本
アップリンク吉祥寺 [シネマ&演劇]
吉祥寺のパルコB2に「アップリンク吉祥寺」がオープンしたので、さっそく行ってみた。ミニシアターのシネコンというコンセプトで、上映作品もちょっと前の注目作がラインナップ。2本立ての名画座ではないが、見逃した作品をフォローするのに重宝しそう。トンネルみたいなエントランスが別世界への入り口のようで、映画のちらしがたくさん置いてあって、待機するソファもたっぷり。上映室内も間接照明でいいセンスでした。
この日見たのは、「カメラを止めるな!」。クラウドファンディングで集めた資金をもとにした低予算シネマ。本当に映画好きが作ったんだなあ、映画愛があふれていると感じた。大いに笑わせてもらい、ホロッとくる感動作でもあった。映画はカネさえかければいいってもんじゃなく、やはり脚本・演出が大事なんだと、あらためて思った。
上田慎一郎監督。主演の監督役は濱津隆之。秋山ゆずき、悲鳴で熱演。
映画『カメラを止めるな!』アツアツファンブック 『カメラを止めるな!』を止めるな!熱狂のポンデミック
- 作者:
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2018/12/05
- メディア: 単行本
オールラッシュ! 映画を作る物語 vol.1 (BRIDGE COMICS)
- 作者: ねじが なめた
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2018/12/07
- メディア: コミック
1坪の奇跡―40年以上行列がとぎれない 吉祥寺「小ざさ」味と仕事
- 作者: 稲垣 篤子
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2010/12/03
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
草津温泉の安室ちゃん [雑感]
群馬県の草津温泉に行って来た。「草津よいとこ一度はおいで」という民謡で知られる、全国屈指の歴史ある温泉地。上野から特急、バスを乗り継いで3時間ほどでホテル高松に着いた。
さっそく中心部にある湯畑へ。90度近い源泉の温度を下げて、風呂に入れるように冷ます昔からの仕組み。そばの熱の湯では、湯もみガールによる湯もみと踊りショーがあっていて、昔ながらの湯ざましが見学・体験できる。宿の湯は確かにちょっと熱めで、露天でちょうど良い感じだった。
街の印象は一つ一つの施設がとても綺麗に整備されていて、もっと鄙びた感じかなという先入観を覆された。西の河原や公衆浴場など、逆に風情というものが阻害されている面もある気もしたが、首都圏から近い観光地としてはインバウンドの受け入れ促進のためにも、こうした環境整備は欠かせないのだろう。
夕食では地酒の水芭蕉を軽く一杯やって、牛すき焼きなどを堪能し、夜の温泉街を探索へ。2時間3千円で飲み放題のスナックMに飛び込みで入る。金曜日の8時過ぎだったが貸切状態。女の子がいないからコンパニオン呼ぼうかというママさんのアドバイスに、「じゃあせっかくなので」とお願いする。1時間で7千円。20代後半のSちゃんは安室ちゃんのファン、さっそく歌ってもらう。ハスキーボイスがなかなかセクシーで、とてもノリの良い子でした。満足な忘年会旅行となりました。
ハード・コア [シネマ&演劇]
狩撫麻礼(かりぶ・まれい)のコミック「ハード・コア 平成地獄ブラザーズ」を山下敦弘監督が映画化。平成の奇書と呼ばれるコミックらしいが、確かに主人公が街宣右翼の手伝いをして宝探しをしているというシチュエーションからして、なかなか突拍子もない。
原作に惚れ込んだという山田孝之に荒川良々、佐藤健というメンツ。AIを搭載した謎のオンボロロボットが加わり、物語が膨らむ。AIが学習によって人間的な感情を持つと、人間との間に友情のようなものが生まれる。ラストはマンガ的だが、作品からはそんな現代的な意味を感じ取った。
右翼幹部の娘役の石橋けい。山田を誘惑する出戻り娘役がとても淫らで、記憶に残った。あとで調べると、カフェオレのCMに若い母親役で出ていて、そのギャップに萌えた。
ハード・コア 平成地獄ブラザーズ 1 【映画カバー版】 ハード・コア 平成地獄ブラザーズ 【映画カバー版】 (ビームコミックス)
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / エンターブレイン
- 発売日: 2018/11/16
- メディア: Kindle版
ムンク展 [アート]
世界で一番知られている絵とも言われるムンクの「叫び」を見に東京都美術館に行った。平日の午後なのに結構な人出。チケット売り場に行列ができていた。
叫びの前は大渋滞。これまでに何度も雑誌や映像で見ているせいか、本物を見てもあまり感動はなかった。むしろ悲しい表情の「マドンナ」のリトグラフに惹かれて、記念にポストカードを買った。
オスロ市ムンク美術館公認のノベルティの多いこと。Tシャツからキーホルダーまで人気のほどがよくわかる。ポケモンの叫びなんてのもあって、ぬいぐるみは大人気で完売していた。アート界のアイドル的存在だ。
『ムンク展 共鳴する魂の叫び』 公式ガイドブック (AERAムック)
- 作者:
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2018/10/25
- メディア: ムック
ドスパロスの碧空 [シネマ&演劇]
上映会でドキュメンタリー映画「SEED(邦題ドスパロスの碧空)」を見た。米国カリフォルニアで成功した日系の米作り農家の過去から現在まで。戦争で収容所に入れられ、それまでの土地を奪われるなど、苦難の歴史をたどる。
国府田ファームを支える一族や工場の人たち。それに故郷の福島の人たちのインタビューがつなぎ合わされている。広大な土地に水を張り、双発機で稲の種子を散布する。米国流の大規模農業に目を見張った。
正直なところ、戦争での日系人の苦労の実態はあまり知らない。人種による差別はきっと根深いものがあったし、今もなおあるだろう。そこらへんのところがもっと描かれていれば、と思った。馬場政宣監督。
森から来たカーニバル [シネマ&演劇]
山崎一が立ち上げた劇壇ガルバの旗揚げ公演を下北沢の駅前劇場で見た。別役実の不条理喜劇。狭い板の中で濃密な80分を楽しんだ。
高田聖子と山崎の夫婦漫才のような掛け合いがいい。森から来るカーニバル、自らを申し訳なく思っている象、その象に踏まれて死にたいと思う人たち。トランペット、オルゴールの音色、ダンスといった趣向。奇妙な設定がどんな形で展開して行くのか、目が離せない。
カーニバルは、例えば戦争かもしれない。賑やかな祭のようにやって来て、普通の人たちの日常を破壊する。なのにそれに自ら志願して犠牲になる人もいる。別役の脚本は言葉遊びのように見せながら、観客を深い思考を誘ってくれる。劇壇とは、芝居に関わる人間の能動的なつながりを意味するという。劇壇の今後に期待する。