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マイ仏教 [読書日記]

敬愛するみうらじゅんさんの「マイ仏教」を読む。生き方の流儀、楽な気持ちで過ごす術が「みうら流」の語り口で綴られている。仏像ファンとは知っていたが、小さい頃から仏像好きでお坊さんになりたかったとは知らなんだ。筋金入りの仏教徒なのだった。

人生は苦。世は諸行無常。だけど、そこがいいんじゃない!
「そこがいいんじゃない!」と自ら呟き、人生を歩んできたと明かす。本人は悟りには遠いと宣うが、いやどうしてどうして。なかなかの強者ですよ。街角般若心経といった取り組みも、その真意を知り、なるほどと思った。

・マイブームに限らず、音楽でも文学でも美術でも、「何かを発表する」という「自分売買」を伴う行為は全て「機嫌をとる」ことから逃れられない。「人に何かを見せたい」という行為と「機嫌をとる」という行為にさほどの違いはない。

・モノマネは「自分なくし芸」。自分探しより自分なくし。自分をなくすと、機嫌をとるを同時にできている。

・言葉を上手に使ってポジティブになる。苦しい時も「そこがいいんじゃない!」と唱え、言葉で脳を洗脳していく。不安なときには「不安タスティック!」。自分だけの念仏を唱える。

表現者として生きる自分にとって、よき指針となる一冊となった。


マイ仏教 (新潮新書)

マイ仏教 (新潮新書)

  • 作者: みうらじゅん
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/07/01
  • メディア: Kindle版



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ハンチバック [読書日記]

遅ればせながら、市川沙央さんの第169回芥川賞受賞作を読む。筋疾患先天性ミオパチーによる症候性側彎症の作者が自らの生活を題材に常日頃思っていること、頭の中の考えを文章に叩きつけた作品だ。100ページ足らずの短編だが、この病気を患っていない人にはわからない苦しさ、体が思うように動かないもどかしさがひしひしと伝わってくる。

作品によると、人工呼吸器を使い電動車椅子で移動する。喉に痰が詰まらないように常に気を付けながら、創作活動を行うのだろう。ケアする人がいるとはいえ、在宅のためスタッフの都合が付かなければ、シャワーも使えない思いをする。障害がある人のケアをするスタッフの人材不足はとても深刻なのだ。

「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」という主人公。障害があるなしに関係なく、誰もが平等に暮らせる世の中はまだまだ遠い。ダイバーシティという言葉が日本語に定着するのはいつのことだろう。そんなことをつらつらと考えたが、作者が言いたかったのはこんなことではなかったのだと思う。「せむし」というタイトルからして、自虐的な構えをしながら、世間に一発食らわせる企みがあったのではないか。


ハンチバック (文春e-book)

ハンチバック (文春e-book)

  • 作者: 市川 沙央
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2023/06/22
  • メディア: Kindle版



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13歳からの地政学 [読書日記]

ウクライナにパレスチナ、世界で相次ぐ戦争。地球儀を見ながら地政学という「ものさし」で世界を見る。国際政治の基本のキ、地理的な条件を基礎として世界のパワーゲームを改めて考えるのに、わかりやすい一冊だった。

内向きな、ドメスティックな考えだけではだめ。誰もが世界のことを自分ごととして捉えてほしい。でも、その前に厳しい現実、生活があるんだよなあ。

パワーバランスという言葉がかつてよく使われた。米ソ冷戦から米国1強、多極化、中国の台頭。世界は混沌としている。日本は「大国」の一つであり、世界では少数派の「加害国」でもある。世界の多くの国からそんな目で見られている面もあるとの指摘には、なるほどと思った。


13歳からの地政学―カイゾクとの地球儀航海

13歳からの地政学―カイゾクとの地球儀航海

  • 作者: 田中 孝幸
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2022/02/25
  • メディア: Kindle版



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土を喰らう日々 [読書日記]

「わが精進十二カ月」という副題がつく、水上勉の料理にまつわるエッセイ。沢田研二と松たか子の出演で映画になったが、見損なった。その原作ということで文庫本を手に取った。

水上勉という作家は知っていても作品を読んだ記憶がない。子どもの頃は京都のお寺で小僧さんをやっていて、その際に精進料理をしっかりと教え込まれたという。近くの野山で取れるものをいかに使って、目新しい料理を作るか。軽井沢に一人住み、その土地のものを美味しくいただくライフスタイルが静かで穏やかで、土の匂いのように懐かしく心地よかった。

季節ごと、12ヶ月の章に分けて書かれているが、気になったのは、大根の浅漬けと、じゃがいもをすり鉢で擦ったサラダ。何かの折に家でも作ってみるかと思った。




土を喰う日々―わが精進十二ヵ月―(新潮文庫)

土を喰う日々―わが精進十二ヵ月―(新潮文庫)

  • 作者: 水上 勉
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/10/07
  • メディア: Kindle版



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街とその不確かな壁 [読書日記]

村上春樹の久しぶりの新刊「街とその不確かな壁」をようやく読了した。春に買っていたのになかなか手がつかず、今年のノーベル文学賞の発表日に合わせるように読み終えた。新聞では受賞を予想した特集もちらほら見かけたが、結局今年も空振りだった。ベケットの再来と呼ばれる北欧の劇作家に掻っ攫われた。

若い頃に書いた中編を書き直したという作品。世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランドの世界をさらに書き込んだという。若い頃にはまだ書ききれなかったが、作家として熟練を重ね、ついに納得のいく作品に仕上がったと、新聞のインタビューでは述べていた。

現実と虚構が入り混じった世界。村上の作品にはよくある。これも現実の問題を浮かび上がらせる(炙り出す)ために虚構のもの(夢の世界)を敢えて持ってくるのだという。自我と影、死者と生きている私たち。過去と現実と未来。いろいろな思いが胸に去来する作品だった。


街とその不確かな壁

街とその不確かな壁

  • 作者: 村上春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2023/04/13
  • メディア: Kindle版



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ジュリーがいた 沢田研二、56年の光芒 [読書日記]

永遠のスーパースター、ジュリーの半生記。カラオケで「勝手にしやがれ」を持ち歌としてきた身としては、読んでおかねばと手にとる。すぐにアーティストぶる輩が多い中、芸能人を全うしている奴が好き。ジュリーはその代表格であり、時代を創り、伝説を残し続けている。この島崎今日子さんのノンフィクションを読んでさらにファンになった。

「理屈をこねるよりも、与えられた状況の中でやっていく方が好き」だから、仕事なので頑張る、まな板の鯉でいる方がいいという。なんか潔いよね。印象に残っているドラマ「悪魔のようなあいつ」、映画「太陽を盗んだ男」。
彼は空虚を超えていく情熱を信じていた。しらけてるだけじゃなく、それを一生懸命生きて超えていこうというメッセージこそが彼を輝かせていた。
なるほどと思った。

再婚相手の田中裕子。彼女の生き方に感化されている。
相手の価値観を内面化し、刺激しあって視野や世界を広げていくのは、結婚や恋愛や友情、他者との関係において「理想型」である。
そうだよね。我が身を振り返り、そうありたいと思った。



ジュリーがいた 沢田研二、56年の光芒 (文春e-book)

ジュリーがいた 沢田研二、56年の光芒 (文春e-book)

  • 作者: 島﨑 今日子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2023/06/12
  • メディア: Kindle版



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コメンテーター [読書日記]

奥田英朗の「コメンテーター」を読む。久々のドクター伊良部シリーズ復活。メルカリで単行本を買い、一気読み。伊良部ワールドに浸った。

変態精神科医の伊良部とサディスティックな女王様風看護師マユミの名コンビ。コロナ禍で心の病を抱えた人たちがドクター伊良部の診療科の門を叩く。まさに戦時中のように行動を制限されたコロナ禍の3年間。引きこもり生活をせざるを得ない人たちの日常をネタに短編が編まれた。赤面症とか、広場恐怖症とか、現代的な心の病を、一見突飛な行動療法で治療していく。

今回、看護師のマユミがロックバンドを率いていることを知る。クールビューティーな感じが素敵。現代人の心の闇を、ユーモアたっぷりのキャラに包んで、エンタメ小説に仕上げている。いやいや、奥田英朗は面白いなあと、改めて感心する。


コメンテーター ドクター伊良部 (文春e-book)

コメンテーター ドクター伊良部 (文春e-book)

  • 作者: 奥田 英朗
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2023/05/11
  • メディア: Kindle版



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兎、波を走る [シネマ&演劇]

NODA・MAP第26回公演「兎、波を走る」を博多座で見た。高橋一生、松たか子、多部未華子ら人気俳優が出るとあって大入り。2度目の野田秀樹作・演出作品だったが、一言で言えば野田秀樹のアタマの中を見せられた、ぶちまけられたという感じ。言葉遊びと記憶と記録が混然となった「野田ワールド」が展開した。

不思議の国のアリスが下敷き。兎を追ってどこかへ行ったアリスを連れ戻そうとする母親が、「妄想するしかない世界」に迷い込む。「もう、そうするしかない現実」と行ったり来たりしながら、不条理な話が進む。

たぶん野田が敬愛する?ブレヒト、チェーホフをもじった劇作家が登場し、劇中劇のような世界を作り出す。成田闘争、過激派のよど号ハイジャック、北朝鮮による拉致事件、AIとVRの世界が舞台に映し出され、時空は螺旋階段のように捩れていく。

兎は「USAGI」で、「USAのGI」というアナグラムの遊び。2023年夏の日本を、世界を、まさに「もう、そうするしかない現実」を妄想の世界として描いた芝居だった。

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絵画で読む「失われた時を求めて」 [読書日記]

語り手(プルースト自身)と関わる人たちや作品に出てくる土地や芸術作品などを図版で示してくれるガイド本。著者の吉川一義さんは「失われた時を求めて」の研究者で、豊富な知識をもとに作品に付されている膨大な訳註について実際の絵画を示しながら作者の意図を解説する。

作品を読みながら適宜この本を参照して、イメージを膨らませることができた。スワンやジルベルト、アルベルチーヌ、シャルリュス男爵、オデット、ゲルマント公爵といった主要な登場人物には、モデルとされる肖像画があった。図版69点収載。

ただ解説は岩波文庫版をもとに書かれている。集英社文庫版とは若干、篇のタイトルが異なっていたりして、翻訳の仕方によって印象も変わったりするのかなと考えたりした。


カラー版 絵画で読む『失われた時を求めて』 (中公新書 2716)

カラー版 絵画で読む『失われた時を求めて』 (中公新書 2716)

  • 作者: 吉川 一義
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2022/09/20
  • メディア: 新書



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失われた時を求めて〜見出された時 [読書日記]

「失われた時を求めて」第7篇「見出された時」を読了した。文庫本で全13巻、10カ月がかりの読書体験。最終篇では作者プルーストの文学への思いが語り手が語る芸術論、文学論の形で示される。

「鳥の目」で自らの生涯を見渡し、出会った人たちとの交流を微に入り細に入り「虫の目」で描く。会話の中では、欧州を中心に古今東西の歴史、哲学、文学、美術、音楽が散りばめられ、当時のパリの社会情勢や最先端の風俗が場面を彩る。フランスを中心とした欧州の歴史やフランス語の知識がないと理解が及ばないシーンも多々あった。自ら3度目の挑戦でやっと読み通したが、フランスに語学研修に行ったり、歴史的な国際政治の流れを学んだりした経験があったからこそ、理解力が高まり何とか最後まで放り出すことがなかったのではないかと自己分析している。

この作品が公に出たのは第一次世界大戦後のこと。現代の視点から思うのは、同性愛が作品の主テーマの一つになっていて、当時の日本を思い浮かべると、文化状況の違いというものを強く感じた。

私たちがある時期に目にした物、読んだ本は、その時周囲にあったものに永久に結びついているわけではない。当時の私たち自身にも忠実に結びついている。それを再び感じたり考えたりできるのは、当時の私たちの感受性、思考、人格のみだ。

本質的な書物、唯一の真実な書物は、すでに私たち各人のなかに存在しているのだから、大作家は普通の意味でそれを作り上げる必要はなく、ただそれを翻訳しさえすればよい。作家の義務と仕事は、翻訳者のそれなのだ。

芸術作品こそ<失われた時>を見出す唯一の手段だ。文学作品の全ての素材は、私の過ぎ去った生涯であることを私は理解した。

作家は「読者よ」と言うが、実を言えば、一人ひとりの読者は本を読んでいるときに、自分自身の読者なのだ。作品は、この書物がなければ見えなかった自身の内部のものをはっきりと識別させるために、作家が読者に提供する一種の光学器械にすぎない。


失われた時を求めて 12 第七篇 見出された時 1 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

失われた時を求めて 12 第七篇 見出された時 1 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/03/20
  • メディア: 文庫



失われた時を求めて 13 第七篇 見出された時 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

失われた時を求めて 13 第七篇 見出された時 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/03/20
  • メディア: 文庫



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失われた時を求めて〜囚われの女、逃げ去る女 [読書日記]

「失われた時を求めて」の第5篇「囚われの女」、第6篇「逃げ去る女」を読了した。恋人アルベルチーヌを自宅に住ませ、外出するにも行動を監視する日々。彼女の同性愛を疑う語り手の葛藤が、じりじりとした思いが延々と語られる。

結局は嫉妬であり束縛であり、愛の一形態なのだろう。100年以上前の時代であっても現代人と、その思いは変わらない。訳者の鈴木道彦は、囚われの女Ⅱの「はじめに」で、「恋人同士がお互いに嘘をつき、だましあい、相手の心を誤解しあう物語の中に、芸術を通しての理解の可能性が執拗に考察され」ると指摘。複雑な絵巻物の中で一本の琴線のように続いているのは、「芸術の可能性」というテーマだと喝破している。なるほどと頷いた。

医学は「自然と肩を並べ、患者を床につかせ薬の使用を続けさせる。人工的に接木された病気は根を下ろし、本物の病気になる。自然の病気は治るけれど、医学の作り出す病気は治らない。医学は治癒の秘密を知らないからだ」。

作家ベルゴットの言葉「おれは小娘たちのために億万長者以上の金を使ったが、彼女らの与える快楽や幻滅のおかげで本が書けてお金がもらえるのだ」。彼は金を愛撫に変え、愛撫を金に変えるのが楽しかったのだろう。


失われた時を求めて 9 第五篇 囚われの女 1 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

失われた時を求めて 9 第五篇 囚われの女 1 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/01/19
  • メディア: 文庫



失われた時を求めて 10 第五篇 囚われの女 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

失われた時を求めて 10 第五篇 囚われの女 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/01/19
  • メディア: 文庫



失われた時を求めて 11 第六篇 逃げ去る女 (集英社ヘリテージシリーズ)

失われた時を求めて 11 第六篇 逃げ去る女 (集英社ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/01/19
  • メディア: 文庫



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怪物 [シネマ&演劇]

脚本の坂元裕二がカンヌで賞を受けた「怪物」(是枝裕和監督)を見る。子どものいじめの話かと思っていたら、モンスターペアレントの話になり、さらに物語が展開していく。「かいぶつだあれだ」という子どもの遊びのかけ声が見る者への深い問いかけとなっているのに気づく。

担任の先生役の瑛太と、恋人役の高畑充希のいかにも楽しげなじゃれあい。深刻な事態の中での軽いノリ、学校の先生の「いま」を表すプライベートな描写がいい。校長役の田中裕子。暗い雰囲気は学校側にありがちな保身を象徴していて、不気味だった。

格差社会、母子家庭、家庭内暴力、教育現場の過酷労働、性的マイノリティー。いろんな問題が絡み合う社会において、「怪物」のような子どもたちを生み出しているのは、周りを取り巻く親であり、学校や先生であり、無関心を装う隣人、あなたではないのか。そんな鋭いメッセージを突きつけられた映画だった。
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失われた時を求めて〜ソドムとゴモラ [読書日記]

失われた時を求めて第4編「ソドムとゴモラ」を読了した。集英社文庫では7、8冊目。この章は600ページを超す分厚さで、微に入り細に入る文章と格闘する形となった。

テーマは作品の主軸の一つ、同性愛について。いわゆるゲイ、レズビアンの人たちへの偏見は当時のフランス社会では根強かったようだ。話の舞台である社交界でもゲイの男爵へ好奇の目が向けられる。主人公は恋人がレズビアンではないかとの疑惑を抱き、苦悩する。今はダイバーシティの先端を行くフランスだが、今昔の思いがする。

心に残った箴言二つ。
人との会話は、さまざまな意見を正確に知るためより、むしろ新しい表現を覚えるためにこそ必要である。
怠け癖さえ天賦の才能のように思われた。なぜなら怠惰は労働の反対であり、労働は才能のない人間の宿命だからだ。


失われた時を求めて 7 第四篇 ソドムとゴモラ 1 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

失われた時を求めて 7 第四篇 ソドムとゴモラ 1 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/10/18
  • メディア: 文庫



失われた時を求めて 8 第四篇 ソドムとゴモラ 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

失われた時を求めて 8 第四篇 ソドムとゴモラ 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/10/18
  • メディア: 文庫



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シン・仮面ライダー [シネマ&演劇]

庵野秀明監督の「シン・仮面ライダー」を見た。ウルトラマン世代で仮面ライダー世代ではないが、安野監督の一連の「シン」シリーズということでチェックした。

ヒロイン緑川ルリ子の浜辺美波が抜群にいい。美少女からクールな女性へ。芯が強くて優しくて、生活感のない役柄にはピッタリはまる。昭和のスターの香りがする俳優だと思う。

悪の秘密結社「ショッカー」は、Sastainable Happiness Organization with Computational Knowledge Embedded Remodelingの略で通称「SHOCKER」なんだとか。ネットによると、「計量的な知能の埋め込み改造により持続可能な幸福を目指す組織」と訳されるらしい。単に世界征服をするといいうのではなく、独特の幸福への原理を掲げてそれを昆虫型の改造人間を使い実現しようとする。サステナブルという言葉で令和の仮面ライダーの味付けをしたのだろう。

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リアル(写実)のゆくえ [アート]

久留米市美術館の「リアル(写実)のゆくえ」展を見に行く。「現代の作家たち 生きること、写すこと」というサブタイトルがつく。以前、超写実の絵画を集めた千葉のホキ美術館に行ったが、写実ということに昔からなぜか惹かれる。

今展は絵画だけでなく彫刻や金属による自在など多様な手法の写実作品が一堂に集められた。もともと絵画はそこにある人や物を人の手によって記録することから始まったのだろう。そういう意味で写実は原点であり、人の欲求の根本にあるものではないか。近代になって写真やコピー機が発明されても絵画や彫刻などで写し取る行為は続く。

樹脂の水槽に泳ぐ金魚(深堀隆介)、鉄自在イグアナ(本郷真也)、静物シリーズ(秋山泉)、義手シリーズ(佐藤洋二)など現代作家の作品が印象に残る。樹木を描いた作家が語っていたのは、刻々と変わる樹木の姿を見ながら写実をする。一瞬ではなく、時間をかけて人の目を通して感じたものが写し取られる。デジタル写真とは違う、作家の思いが作品には宿る。その魅力が見る者に訴えかけるのではないかと思った。

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すずめの戸締まり [シネマ&演劇]

3・11に新海誠監督の「すずめの戸締まり」を見た。家族が不在で、たまには映画でも見るかとチケットを予約した日が3・11だった。その日だけ上映回が増えているのに後で気づいて、東日本大震災から12年の日だと思い出した。

地震の話で3・11の被災者にはストーリに複雑な思いがあると聞いていた。南海トラフの宮崎南部から四国、神戸、東京、そして東北と、物語は地震列島を北上していく。地震を起こす地底の力を表すミミズが青空に伸びていく異様な景色は恐ろしく不気味だった。かつて住んでいた東京の住居付近であるお茶の水の地下鉄丸の内線が地上に顔を出すトンネルの出口。そこからミミズが出てきて東京の空にトグロを巻く。要石から解放されたネコのダイジンが「100万人が死ぬよ」と可愛い声で囁く。恐ろしい言葉に鳥肌が立った。

要石にされた閉じ師の若者をすずめが助け出すのは予定調和のストーリーだが、母を失った幼いすずめを育てた叔母たまきとの関係、姉の娘の子育てで青春を奪われた体験は、多くの犠牲者を出した被災地ではよくある話で、同じ思いをしている人があるんだろうなと胸に刺さった。そして涙が止まらなかった。自分が被災者だったら3・11にこの映画は見たくないと思った。
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失われた時を求めて〜ゲルマントの方 [読書日記]

第3編「ゲルマントの方」を読む。スワン家と反対側の道を行くとあるゲルマント家の人たち。憧れの公爵夫人に会うため友人の伝手を辿ってようやく晩餐会に行く。歴史や物語に登場する名家の名前たち。広大な屋敷に華やかな出立ち、高貴な口ぶり。でも、そこで口にされる話題と言ったら・・・滑稽で醜い人たちの言動を事細かに記してサロンの実態を描く。

ドレフュス事件という当時の世論を二分した大事件の話が出てくる。ユダヤ人への差別意識は、日本でいう在日差別と同根のもののようだ。作者のプルーストの母親がユダヤ人であり、同性愛ととともに当時のマイノリティーの置かれた立場が作品の主題の一つであることは疑いがない。

この編では元カノのアルベルチーヌが成長した姿を見せたり、大好きだった祖母が天国に召されたりする。以下は印象に残った節とトリビア。
・「このような無用な時間、快楽を待つ奥深い控室のような時間、それを私は知っていた。かつてバルベックで皆が夕食に行ってしまい、一人で自分の部屋にいた時に、こうした時間の持つ暗いけれども快い空しさを経験した」
・当時のフランスでは、高貴な人に対しては三人称で呼ぶ習わしがあった。


失われた時を求めて 5 第三篇 ゲルマントの方 1 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

失われた時を求めて 5 第三篇 ゲルマントの方 1 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/08/18
  • メディア: 文庫



失われた時を求めて 6 第三篇 ゲルマントの方 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

失われた時を求めて 6 第三篇 ゲルマントの方 2 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/08/18
  • メディア: 文庫



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失われた時を求めて〜花咲く乙女たちのかげに [読書日記]

第2篇「花咲く乙女たちのかげに」を読了する。タイトル通り語り手の主人公が乙女たちに恋する様、その心情が延々と語られる。例によってさまざまなイメージが想起され、次々と登場する人物たちが主人公に刺激を与える。

初恋の相手はジルベルト。スワンとオデットの娘だ。サロンが開かれる自宅に通い詰め、恋の喜びに浸り、やがて熱が冷める。パリのシャンゼリゼが出会いの場所で、今とは違って移動手段は徒歩か馬車。19世紀の頃からレストランがあり、それが今でも続いているといった訳注に当時の情景を想像する。花の都の歴史に思いを馳せた。

後半では、保養地での少女たちに夢中になる。アルベルチーヌが率いる一団。ブルジョアと貴族、ユダヤ人といった登場人物により、その頃に始まった格差社会や差別の構造が描かれ、それが物語の背景になっている。プルースト自身がユダヤの血を引いており、社会が発展していく中で次々と吹き出す新たな問題へ関心が高かったのがよく分かった。





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2050年のメディア [読書日記]

読売新聞、日経新聞、ヤフーを中心にインターネット時代のメディア業界の地殻変動を描いている。慶應SFCの講座から生まれた。メディア業界に関わる人たちには必読の一冊だろう。

紙の新聞か、デジタルか。技術革新か、スクープか。業界の人間にとっては、この20年ほど常にこの言葉が頭のどこかにあり、自らの拠って立つ地盤、会社は大丈夫なのか、転身すべき時なのではないかと自問自答する人も多かったのではないかと思う。ソフトバンクの孫正義がiPhoneの販売権を得て、国内で売り出したのは2008年6月。10年には4Gが実現し、世間にはあっという間にスマホが普及した。それから12年、スマホでニュースを知る時代が到来するとともに新聞の部数は激減してきたのだ。

今年になってスポーツ紙が相次ぎ休刊、デジタル媒体に切り替わるとの発表があった。次はいつ夕刊がなくなるか。最新のニュースがスマホで見れる環境では、すでに夕刊の存在意義は薄れている。惰性で発行しているのは、広告売上高を減らしたくないという、つまらない新聞社内の事情だけだ。とはいえ、新聞社はジャーナリズムの担い手として生き続けてほしい。米国のように地方新聞がなくなった街を想像してほしい。行政権力に対してものが言えない社会。誰も批判する者がなくなると、必ず権力は腐敗する。ロシアや中国、北朝鮮。官製メディアだけの言論社会は想像するだけで寒気がする。


2050年のメディア (文春e-book)

2050年のメディア (文春e-book)

  • 作者: 下山 進
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/10/25
  • メディア: Kindle版



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百花 [シネマ&演劇]

川村元気が原作、脚本、監督の「百花」を見た。認知症で記憶を失っていく母と息子の物語。人の忘却、忘れるということについて考えを巡らす。AI、人工知能があらゆることを記録してくれる時代だからこそ、人間ならではの記憶の特殊性、感情が介入する思い出の大切さを思う。

認知症の母が覚えている景色、息子が忘れていた思い出。キーワードは、母親がもう一度見たいと息子にせがむ「半分の花火」。半分の花火って、どんなんやろか? スクリーンで見て、半分の花火の景色を見て(ここで一気に伏線を回収)、「なるほど」と頷き、ついほろりとした。

原田美枝子、菅田将暉、長澤まさみ、永瀬正敏という主要キャスト。年を感じさせない原田の色気に感心する場面もあった。永瀬は「オリバーな犬」でも久しぶりに見たが、自分としては随分久しぶり。年をとってなかなか渋くなった。


百花 (文春文庫)

百花 (文春文庫)

  • 作者: 川村 元気
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2021/07/07
  • メディア: Kindle版



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